試し読み(一部のみ)
広告まんが道の歩き方:2巻/営業編
●01.広告漫画がほしい客をどうやって見つける?
・1)自分からは売り込みづらい広告漫画
・2)お客の言う通りに従えないから売り込めない
・3)時間が解決してくれた営業問題

01.広告漫画がほしい客をどうやって見つける?

 広告漫画が欲しい企業がドコにあるかは、ボクにもわかんない。どんな会社でも漫画で広告してみたいと考えることはあり得るし、だからといって一軒ずつ回って「ちわ〜っす、漫画いかがですかぁ?」なんて言って歩いたって、売れるわけがない。いや、ものすごく稀には売れるかもしれないけど、効率悪すぎだよね。
 そんなわけで、コッチから売り込みに歩いたことはないんだよね。別件でお会いしたときに「漫画もできる……っていうか、実はソッチが得意なんですよ」とPRすることはよくあるんだけど。
 なので、ボクは売り込むというよりも、様々な人と接触する機会を増やして、お客のほうがコッチに興味を持って声をかけてくるのを待つ、というのが基本なんだ。
 迂遠すぎる方法のように思えるだろうけど、それでもボク、この方法でずっとやって、そこそこ仕事も獲っているのよ。


1)自分からは売り込みづらい広告漫画

 ウチで漫画を手掛けさせてもらったお客には、超有名企業から個人事業主まで色々あるのだけど、そのほとんどがメールでご相談いただいたものだ。
 ネットでウチのホームページを見つけてくれて、興味を持ってくれて、お問い合わせしてくれるのをじっと待つ。クチコミで紹介されることもあるけど、仕事のほとんどは「ネットで見たんだけど?」とメールでお問い合わせいただくところから始まっているのだ。
 だから全然メールが来ないと、ホンットに不安。大丈夫なのか、来月生活できるのかって、ドキドキしちゃう。もうね、迷惑メールでもいいから来てくれって思うくらい。
 あんまり怖いから、こっちから売り込みに行きたくなるんだけど、でも効率悪すぎるってだけじゃなくて、他にも問題があって、なかなか売り込みに行けないんだよね。
 仮に売り込みに行って「漫画描かせてください」って言って、漫画の仕事を獲得できたとする。でも、その場合は、お客自身は漫画の広告物なんか作るつもりはなかったはずだ。たまたまボクと出会って売り込みされたから、その気になったというだけで、自分から漫画を求めていたわけじゃない。
 となると、頼み込んでやらせてもらってるんだから「コレは漫画で創作物なんだからボクの言うことに従ってくれ」とか言いづらいでしょ。むしろ「お客様のご満足のために何でもやりまっせ」と言うべきでしょ。
 でも、それが一番マズイんだ。
 お客様のためだからこそ、心を鬼にして言うべきことを言わなきゃならないときもあるんだよ。相手は素人なんだからプロとして助言してあげるべきだし、ボク自身も素人意見に振り回されてロクでもないシロモノなんか描きたくない。
 ちょっとオーバーだけど、医者が何でも素人の言う通りだったら、かえって信用されないのと似てると思う。患者(お客)がいくらお酒飲みたいって言っても、ダメものはダメって言わなきゃ医者じゃないんだから。


2)お客の言う通りに従えないから売り込めない

 漫画で広告するのなら、広告のことだけじゃなく漫画としてもアリなモノになってなきゃ意味がない。ストーリーとかキャラがどうでもいいんなら、漫画にしなきゃいいんだから。広告したいコトに従っているだけじゃ漫画にならないんだ。
 でもお客は漫画家じゃないから、そういうコトがわからない。
 わからないなら黙って任せて欲しいんだけど、コッチから売り込んでいたら、そういうわけにはいかないんだよね。仕事させてと頼んだのはコッチだから。立場弱いんだから。
 それに、ボクが言うことが常に正しいわけでもない。
 ぶっちゃけ、やってみなきゃわからない。自分では「こんなのクソだ」と思いつつ、お客の言う通りにやってみたら大ヒット、なんてことだってあり得る。つまりボクは正しいことを主張してるんじゃなくて「自分はこうだと思ってる」を言ってるだけなんだ。長年やってるから素人さんよりはわかってるつもりだけど、それだってあくまでも確率の問題で、確実なわけじゃない。
 ただねぇ、こりゃダメだ、クソだと思いながら漫画描いてもねぇ……。
 そんな気持ちで描いた作品で、いい結果が出るとは思えないし、仮に結果がよかったらよかったで嫌な気持ちになっちゃうだろうし。
 やっぱり漫画は、描いてよかったな、気持ちいいなって思えないと。ボクはボクの味で勝負しないと。全然理解できない他人の味覚に合わせて味付けはできないんだよね。自分の味覚で美味しいって思うものしか作れない。できないことはできないんだ。
 でも、コッチから売り込みしてると、そのできないことをやらされちゃうんだ。
 頼み込んで売り込んで、というのは、ようするに客引きだからね。ウチの店は絶対ウマイっすよと言って、客の袖を引く。でも味が合わないかもしれない。他のお客にどんなにウケても、その人にはダメってコトはあるわけだから。
 でも、頼まれて食べてやってカネも払うのに、マズかったらムカつくでしょ。
 そういうコトになりがちなんだよね。

 だから「こちらから売り込みに歩かないで、お客の接触を待つ」というやり方中心にせざるを得なかったんだ。
 お客がお店を選んでやってくる。ウチはウチの味を出す。その味がお気に召さないのなら、もう来なくてもいい。ウチはウチの味を求めてくれる人のためにやってるんだから。
 漫画も同じなんだ。どんなヒット作だって嫌いな人はいるわけで、A先生が好きな人はA先生を選べばいい。B先生にAっぽく描けって言ってもダメなんだ。そもそも失礼すぎるし。
 お客のほうが選んだ。この形がどうしても必要だったんだ。
 客の袖を掴んで無理やり描かせてもらってもダメなんだ。
 だから、待つしかなかったの。
 誰かが、路地裏にあるウチの店を見つけて「おっ、意外に美味いかもしれないぞ」って来てくれるのを、じっと待ってる。そして実際に美味いと思ってくれて、常連さんになってくれるのを期待する。そういう常連さんだけで十分やっていけるようになるまでガンバるしかなかったんだ。


3)時間が解決してくれた営業問題

 ボクがじっと待つ戦法でやれたのは、実は「漫画の仕事が獲れなくても他の仕事なら獲れる」だったからだ。
 ボク、フツーの広告業もやってるからね。チラシでもポスターでもWEBサイトでも、全部やれる。どれが売れても稼げる。だから漫画に関しては、焦らずに待つ方法を選んだんだ。
 そして、たまに入ってくる漫画案件をこなしていく。
 最初は年に1〜2回しか依頼が来なかった。でも、それが上手くいった(一定の広告的な成果を挙げた)となると、次が来るようになる。そうして徐々に「広告漫画家」としてボクを認識してくれる人が増えていった。
 そして、時々大きく目立つ仕事、お客だけでなく周囲にも注目される仕事をやれることもある。そういう事例があると、最初から漫画家として見てくれる人も出てくる。そういうことを3年くらいのサイクルで繰り返す。
 全然、漫画の仕事獲れね〜なぁと思っていても、振り返ってみると、前の3年よりはずっと増えている。大体いつも「それまで」に対しての割合で増えていくので、長くやっていればいるほど、増える割合も大きくなる。

 目に見えて加速し始めたのは、ここ10年くらいだな。自分のキャリア全体から見ると、雌伏15年って感じ。序盤の5年ほどは単なるジタバタ。そこから3年のサイクルを5周やって、ようやく「それなりに漫画の仕事もある」になってきたというところだから、今の状態になるまでに20年もかかったことになる。
 それでもまだ、漫画だけでやっていくには足りないんだけどね。
 けどボクは、耐えてコツコツとやっていく道を選んだから、比較的ノビノビと仕事できていると思う。
 こっちから袖を引かずに耐えるっていうのは、お客を選ぶってことだから。
 ウチの味を認めてくれる客に絞り込んでいくってことだから。
 ボクは漫画に限らず、全ての仕事でそういうやり方をしてきた。自分がどんなヤツか、どういうモノを美味いと感じるのか、どういうことが嫌いなのかといった事を、お客に隠さず、そのまんまにさらけ出してきた。
 だから「合う人」だけが残っていくんだ。
 たまに一見さんも飛び込んでくる。そういうときも、いつも通りにやる。それが合う人なら、残る。合わない人はそのとき限りでいなくなる。いなくなっても、舞い戻ってくることだってある。そういうときも受け入れる。他所の味を試してみて、やっぱウチも悪くないって思ってくれた人のほうが、より付きあいやすくなるってこともあるんからね。
 そうやって、上がったり下がったりしながら、約30年。3年のサイクルを10周近くやったことになる。思ったほど進んでない気もするし、ここまで続いたってだけでも進んでいたと言えるのかもしれない。

 実際最近は、気心の知れた人たちだけを仕事相手にしていても、それはそれで何とかやっていけるくらいになってきた。ボクやスタッフが病気になったりすると、ボクを支援しようと仕事を調整してくれたりする人たちだ。
 すぐに出来なくてもいいよ。身体を治すまで待つからね。
 治療費かかるだろ。仕事回すから頑張れ。
 キツイだろ。手伝ってやる。
 そういうお客に囲まれて、仕事できるようになってきたんだ。
 本当にね、泣けてくる。心から感謝している。
 だからこそ本気を出せる。燃えることができる。期待に応えたいって思う。その気持ちが仕事の質を上げてくれる。そうやってさらに期待してもらえるようになる。
 また、そういう人たちは他の人にもボクを勧めてくれる。クチコミってヤツだよね。これも、すごくありがたいの。あの人が推薦するくらいだからと、ボクのことも信じてもらえる。そして信じた甲斐のある仕事ができれば、その人もボクの大事な顧客に加わってくれる。
 長い時間がかかって、それだけかけても完全には程遠くても、ボクはそれなりのモノを得てこれたと思っている。自分のフトコロにお金はあんまりないけど、いざってときには頼れるお客を多少は持つことができたんだから。

 え? それでも3年サイクルは長いって?
 まぁね、そりゃそうなんだけど。特に若いときは3年なんて遥か彼方だもんねぇ。
 でも、ボクだってそう思ってたんだよ。そんなには待てないって。
 そう思いながらアレコレ足掻いて、気付くと3年。また足掻いて3年。
 その繰り返しだったの。
 だからね、足掻いて足掻いて、とにかく続けること。
 続けていれば、いつか振り返ったときに、ちゃんと実が育っていることに気付けるから。まだまだ青くて美味しくないとしても、まったく食えないよりはマシ。そして年々、美味しくなっていくのよ。そうなると信じられるようになるのよ。
 時間は、力だよ。生きてきた時間っていうのは、何よりも強い力になる。
 あきらめないで続けること、踏ん張ること。
 そうしていれば、いつの間にか道ができてると思うんだ。拓けるんじゃなくて、気付いたらできてる。そういうモンだと思うなぁ。
 自分の味に自信がなくても、いいと思うよ。
 そんなの、ボクだってないもん。自分の味は美味いと思ってるけど、それはボクの味覚がズレてるせいかもしれないんだから。自信なんかない。
 けど大丈夫。人類70億、日本人だけでも1億以上。子供と高齢者を除外しても数千万人。その中にボクと同じ味覚の人は必ずいるんだ。
 自分の味覚と合う人と、一定数以上出会えさえすりゃいいだけなんだ。どんだけレアな味覚だったとしても、レアであればあるほど貴重になるから、その分だけ客単価も高くできる。だから何とかなる。
 続けていること、生き延びてることが一番大事。
 営業し続けていれば、いつかは届く。
 ボクはそう思って、今日も裏通りで待っているわけ。


※追記
 ちなみに3年ってのは1つの目安ってだけで、正確に3年ごとに何かを測れるってことじゃないよ。ただね、そのくらいの期間はじっと耐える。耐えてみせなきゃ仕事って生まれないのよ。
 ボクは、地域活動などにも積極的に参加するようにしている。特に店主や会社経営者が多く参加しているような活動には、機会があったら顔を出している。当然、営業のためだ。ボクが何者で、どんなことができるのかを知ってもらいたくて参加するんだ。
 だけど、そればっかりアピールしてもダメなの。本来、営業の場じゃないんだから。
 まずは仕事の売り込みなんか忘れて、地域活動やボランティアを本気でやる。周囲の人はそれを見ている。そして3年くらい経ってようやく「コイツはガチだ」と認めてくれて、そうなって初めて「んでオマエ、本業ではナニができるの?」と興味を持ってくれるようになるのよ。
 ボクはいっつも、そんな感じ。まず仲間に、友だちになっちゃう。
 そうなってから仕事でも付きあえるようになっていこうとする。
 営業下手くそだからね、そういう方法でしかやれないのよ。いきなりモノやサービス売れるほど手慣れていないのよ。
 だから3年踏ん張るの。それをあちこちでやって、だんだんと芽が出てくるのを待つ。それを延々と続けて今ココ、という感じなんだ。今すぐに何かに届くようなやり方は、ボクは知らないし、できないの



× 閉じる