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広告まんが道の歩き方:別巻/メール商談ライブ3
●1.あえて予算オーバーに踏み込む 〜作者としてのこだわり〜
・プロセス02:代理店との出会い(チャプター:02〜11)

1.あえて予算オーバーに踏み込む 〜作者としてのこだわり〜



プロセス02:代理店との出会い(チャプター:02〜11)



受信

うるのクリエイティブ事務所
ご担当者様

突然のご連絡にて失礼致します。
○○の☆☆と申します。

貴社サイトを拝見させて頂きました。
弊社、広告代理店ですが広告においてのマンガ利用に非常に興味があります。
クライアントに提案したいと考えておりますが、代理店or業務提携という扱いで良いのでしょうか。

条件などございましたらお教え頂きたく存じます。
何卒宜しくお願い申し上げます。

(以下、書名)


解説

 このメールは、ウチのホームページの「お問い合わせフォーム」から送信されたものだ。
 ほとんどの新規案件が、そう。
 まずは、こうした簡単なお問い合わせから縁が始まる。
 代理店とか業務提携とか書いてあるのは、ホームページにそういう方を募集してますと書いてあったからだろうなぁ。いや、そういう付きあいが出来る方を増やしたいとは思ってるんだけど、別に一見さんでもお引き受けするんだけどね。
 とにかく、せっかくご連絡くださったのだ。
 このメール1本の問い合わせを実のあるものにしていけるかどうか。
 まずは、そこからだ。


送信

うるのクリエイティブ事務所代表の「うるの拓也」です。
お問い合わせありがとうございます。
(ご返信が遅くなったこと、大変申し訳ありません)


当社のマンガを扱っていただく際には、特に契約等は必要ありません。
条件もほとんどないのですが、

1)公序良俗に反する作品(ポルノなど)はお断りします。
2)作品はデジタルデータでの納品となります。
3)作品をクライアント以外の第三者に転用・譲渡・販売する事は認めておりません。

当社は著作権を手放しはしないが、主張もしないというスタンスです。このため、クライアント自身がマンガを二次使用しても一切追加料金はいただきません。
けれど、作品の著作権そのものを手放すわけではないということになります。

基本的には、この3点だけです。

それと、これは条件ではありませんが、案件が生じた際に、できるだけ早めにご相談いただけるとありがたいです。事前に企画提案したり、類似の作例を提供したりできることもありますし、スケジュール確認も必要ですから。
(せっかくご注文いただいても、先行案件とカブってしまうとお断りせざるを得ないこともあります)

企画提案からだと制作料が高くなる、といったことは一切ありません。というより昨今は企画料なんか取れないことのほうが多いですし、だからといって考えなしに仕事するわけにもいかないので、全部コミコミでやることにしています。

なお、金額的には良質な作品を描くためのギリギリを設定しておりますが、懇意な代理店様、連載等の継続的なお仕事、社会性の強い案件等の場合には、特例的な料金を設定させていただくこともあります。

ご都合がよろしければ、一度伺って御挨拶させてください。
今週は無理ですが、来週であれば14〜17日の間はご希望の日時を空けることができると思います。

■追記
以下、ちょっと長くなりますが、これまでに広告マンガの仕事を続けてきて、気付いた事、ありがちなこと、注意すべきことなどを記載しておきます。

私たちが、どんなことに配慮しつつ、良質な作品づくりを目指しているか、どんなふうに代理店様をサポートしているかなどです。お仕事を確保してくださる代理店様は一番大切なお取引先ですので、常に最大限の協力をしていくように心掛けています。どんなことでもお気軽にご相談ください。
(ただし、作品制作に打ち込んでいるときや、何らかの締切直前などのタイミングには動きが取れないこともあります)

では、どうぞ、よろしくお願い致します。


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マンガ広告取扱いについての解説
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マンガを読む事には、現代の人々は慣れていますが、描くとなると、その背景にある部分は見えないことが多く、無茶すぎる要望だったり、対応可能であってもソレをやるとクライアントにとってマイナスになるといったことも少なくありません。

例えば、わずか8ページしかないストーリーマンガで、2人の主人公の20年に及ぶ波乱万丈の人生を詳細に描いてほしい、といった要望を受けたことがあります。
これは無茶苦茶で、8ページに収まるわけがありません。

こういうことにクライアント様は気づけないことが多く、単に要望に沿うというだけでは、良質な作品は生み出せません。
また、キャラクターのイメージ、タッチ等も作品内容と密接に関係しますから「こんなタッチがいい」と言われても、そのタッチで描くのは不適切である場合もあります。

シナリオを用意しているお客様も少なくないのですが、それがそのまま利用できることは、まずないと言えます。
当社作品見本(リンクURL)に掲載されている作品中、お客様の要望通りに描いたモノは、20XX年に描いた××××社様の4コママンガ1本だけ。
これは社内新聞のオマケだったため、紙面全体の構成を重視し、プロデューサーのイメージを優先したためです。
それ以外の全ての作品は、元々のシナリオがあろうがなかろうが、当社で再提案・再構築して描いたオリジナル作品です。

マンガ広告とは、マンガの面白さ、ストーリーや登場人物への共感などを企業や商品に上乗せして、広告価値を高めるものだと考えていますので、例え1ページであろうとも、起承転結がきちんとしていて、コマ割や描写にメリハリのあるものを描くべきなのです。
そうでなければ、そもそもマンガにする意義が失われてしまい、クライアントに何ら寄与することができないからです。

ですのでマンガの仕事では、クライアントが何を考えていようが、必ず提案し直すステップがあると考えるべきで、スケジュール設定にも、できるだけ余裕を持たせたほうがいいです。

なお、そうした提案を「余計なお世話」あるいは「クライアントに逆らう行為」と感じる方も稀にいらっしゃいます。ですので、そうした際には、私が代理店様と同行し、直接クライアント様とお話しすることも多いです。
(出来の悪いものが仕上がってしまうことに気付いているのに、それを無視するのは不誠実ですし、いくら代金をもらえても実績にならない仕事は望ましくないですから)

代理店様にとって頑固な方でも、漫画家本人が訪ねていくと素直になってくれることは多いです。その場で漫画家の目線から意見やアドバイスを行うとお互いに見えてくることもあります。だからモメそうなときは、できるだけ直接お会いして代理店様をサポートするようにしています。

最終的には、お客様には「モチはモチ屋」と思ってもらい、任せてもらえるというのがベスト。マンガにはマンガだけの文法や表現、演出があるし、特定の作者が描く以上、その人の作風に引きずられる部分はどうしてもあります。だから結局は「任せてもらう」しかない部分は消せないわけで、クライアントが任せきれないと感じているままで進行すると、後々トラブルの種になりやすいのです。
それを回避するために、必ず任せることを納得(説得ではない)させなくてはならず、ボクは契約前にそのことに最大の注意を払います。

(そうしたことが多いので、ボクは普段から「長髪のポニーテール、作務衣に雪駄履き」という「漫画家っぽい格好」をしています。
これは記号で、まさしくコケおどしでしかないのですが、そのおかげで相手に漫画家として受け入れられやすく、打ち合わせもスムーズになるんです。言ってみれば「漫画家が漫画家のコスプレをしている」のですが、営業現場では意外なほど効果があって、面倒だけどやめられないんです)

(以下、書名)


解説

 いつも通り、最低限の事前情報的な内容で返信した。
 興味の薄い人、具体的な案件がまだない人だと、ここで途絶える。
 さて、今回はどうかな。


受信

うるの様

ご連絡ありがとうございます。
もし可能であれば、是非一度ご挨拶させて頂きたいです。
仰る公序良俗等々の3点は問題ございません。
14−17日でご都合の良い日時をご指定頂ければ予定を空けておきます。

ただ、現状でお願いを決定しているものではございません。
なので、せっかくお越し頂いてもすぐにお願いさせて頂けるか分からないのが正直なところです。社内にデザイン担当もおりますので、上からは社内で出来る事は社内でと都度言われておりますので。。
それでも宜しければご相談させてください。

現状、私の方で提案したいと考えているクライアントとしては

●女性向け×××系会社
●▽▽▽向け観賞魚系会社

こちらには特にお力をお借りしたいと考えております。
個人的には説明商品には特に漫画の力が有効ではないかと思いますので、いろいろとご相談させて頂きたいと存じます。
お忙しいところ大変お手数とは存じますが、ご検討のほど何卒宜しくお願い申し上げます。

(以下、書名)


送信

うるのです。

> 14−17日でご都合の良い日時をご指定頂ければ予定を
> 空けておきます。


では、15日午後でいかがでしょう?
先刻のメールではうっかりしていましたが、私は地元の大学で非常勤講師を引き受けており、14日はその講義の日でした。(といっても半日なので、15時頃でよければ伺えるのですが)

ですので、15日の午後以降であれば、何時でも大丈夫です。
(16・17日でも可です)

> ただ、現状でお願いを決定しているものではございません。
> なので、せっかくお越し頂いてもすぐにお願いさせて頂けるか
> 分からないのが正直なところです。


気になさらないでください。こういうことはご縁だと思います。
ご縁があれば、いつか何かの形でおつき合いできることもある、そういうことだと思うのです。ボクも業界経験が長い(もう25年になります)ですから、すぐに都合良く仕事になるなどとは考えていません。
(なったらいいなとは思いますが、1つの会社と取引するのに3年かけたことだってありますし、一瞬で仕事が決まることもあります。こういうのはタイミングなので、まず縁を持つことが大事だと心得ております)

> 社内にデザイン担当もおりますので、上からは社内で出来る
> 事は社内でと都度言われておりますので。。


それは当然のことですね。
ほとんどの代理店様の場合、マンガを扱う場合でも、当方が担当するのはマンガ部分のみで、デザインや企画の全ては社内で行っているものです。
ただ、イラストもできるスタッフを抱えている場合でもマンガはイラストを並べたものではなく、かなりの専門職となるので、当社をお使いいただいているのです。
(そもそもマンガは「そういう案件」にしか使えない技能なので、社内に抱えるのはコスト高でありすぎますしね)

> ●女性向け×××系会社

これは消費者の女性を登場人物にして、第三者的な視点で商品情報を語らせる、といった構成が考えられますね。1ページの雑広なら、少しコミカルで楽しいものにしたり、4コマ作品(女性向けの4コマ専門誌は多い)を2つくらい掲載する(あるいは1つずつにして複数バリエーションを作る)のもいいでしょう。
4コマは、デザイン次第で様々なスペースに転用しやすいメリットもあります。

> ●▽▽▽向け観賞魚系会社

観賞魚との関わりや触れ合いを、昔懐かしい「ボクの夏休み」的な部分を持たせた構成で描く、なんてのはいいかもしれませんね。
もっとも、このクライアントは観賞魚そのものではなく、観賞魚用品のようですから、ひょんなことから観賞魚と出会い、飼育用品や飼い方を学んでいく・・・というのが自然かもしれません。

> お忙しいところ大変お手数とは存じますが、ご検討のほど
> 何卒宜しくお願い申し上げます。


いえいえ、漫画家もしっかり営業しないといけない時代ですから。
それに今月で長期連載していた「カソクキッズ」が完結するので、しばらくマンガスタッフが暇気味になりそうですし、そろそろ営業に精を出そうと思っていたところなのです。
もっとも完結とは言え、すでにより長期のセカンドシーズンの続行が決まっているので、次回シリーズとして仕切り直す充電なんですが、どちらにしても連載に頼って商売しているわけではないので、様々な方とご縁を作っていくのは大切なのです。

どうぞ、よろしくお願い致します。

(以下、書名)


解説

 まだ、すぐに発注できるわけではないけど、漫画で提案してみたい相手がいる、というところだな。OK、それはそれでいいことだ。
 実際のオーダーまでは、かなり遠いと思われたけど、それでも、その場で思いつく程度の感想や提案はしておいた。
 そういうことで曖昧だったモノが徐々に具体的になっていくものだからね。
 挨拶だけでも、直接会っておこうというのも、同じ。
 今はただの可能性だけのモノでも、それを実体化させるために打てる手は打っておく。仕事って、そうしてないと、すぐに流れ去って二度と帰って来なくなるのよ。


受信

うるの様

ご連絡ありがとうございます。
それでは、15日の15時でいかがでしょうか。

お会いさせて頂けるのを楽しみにしております。
何卒宜しくお願い申し上げます。
ご都合が悪いようでしたらお知らせください。

参考までに弊社地図を添付させて頂きます。
今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。

(以下、書名)


送信

うるのです。

ご返信ありがとうございます。
では、6月15日の15時に伺わせていただきます。

観賞魚業界に詳しいわけではないのですが、確かに市場規模はそれほど大きくないですよね。雑誌もアクアライフくらいしか思い出せないし。フィッシュマガジンとかいうのもあったよ〜な。
(友人に観賞魚や爬虫類が好きなヤツがいまして、色々見せてもらっていました。また茨城には昆虫用品の大手がありまして、そこの仕事をした際にも、こうしたジャンルを調べたことがあります)

※地図、ありがとうございます。
ボクは漫画家デビュー当時は、東銀座(築地寄り)の代理店で働いていたんですよ。御社の周囲を走り回っていたものです(25年も前のハナシですが)。
現在も日本橋界隈のお客様は多く、お近くまではしょっちゅう行きます。

(以下、書名)


解説

 観賞魚の専門誌の名前を挙げて「少しは知ってるぞ、そっちが持ってくる案件に興味はあるぞ」とアピール。
 いや、ボク自身は観賞魚を飼ったりしたことないんだけどね。いい加減なヤツだから、飼ってもすぐに死なせちゃいそうだから。


 さて、本題とは全く関係ないんだけど、先のメールに出てきた「観賞魚や爬虫類が好きな友人」について、ちょっと書いておこう。いや、すげぇヤツなんだよ、マジで。

 学生時代からの友人で、ロリコンで漫画家志望。吾妻ひでお先生の「ななこSOS」が大好き。自らをニンゲンではなく「カイジュー」と称している。
 ふわふわ、もさもさしたもの(犬や猫)より、スベスベ、ツルツルしたもの(昆虫や爬虫類)を好む。ボクは体毛が少ないので、彼にとっては触り心地のいいモノだったようで、よく手を握られた。いや、ヘンな勘違いされるからやめろよ。
 どんなモノでも、大量に食う。おひつでご飯をおかわりするし、不味いものでも「多ければ美味い」と豪語する。パーティバーレルのフライドチキンは自分だけの一人前。2リットルのペットボトルコーラが普通の人の缶コーラ1本分。
 汚水で触るのも嫌な川からザリガニを獲ってきて、インスタントラーメンに入れて食う。もちろん腹など壊したことがない。雑草なども平気で食べる。
 ものすごい甘党でもある。
 とある本格珈琲店にクリームをたっぷり浮かべた「琥珀の女王」という、とても甘いアイスコーヒーがあったのだが、ヤツはそれでさえガムシロップを2杯おかわりした。渋さが売りの6杯立てデミタスを飲ませてやったときも大量に砂糖を入れて、マスターを絶望させた。
 夏でも冬でもTシャツにサンダル。決して靴下は履かない。スキーに行ったときでさえ、裸足にサンダルだった。「だってよぉ、靴下が塗れると染みて寒いじゃん」と言ってたけど、いや、まずサンダルをやめて靴を履けよ、靴を!
 バイトは主に日雇いだ。
 明け方、ボクのアパートのドアを叩く者がいる。眠い目をこすりながらドアを開けるとヤツが立っている。品川まで日雇いのバイトに行くから、片道分の電車賃を貸してくれと言う。いや、オマエのアパートは3駅先だろ。ここまで歩いて来たのかよ。
 片道だけじゃ帰ってこれないだろうとツッコむと、帰りはバイト代があるから大丈夫だと言う。仕方なく金を貸してやって、ボクはまた布団に潜り込む。
 昼頃、再びドアを叩く者がいる。またしてもヤツだ。
 バイトはどうした、もう終わったのかと聞くと、あぶれてしまったという。
 じゃあ、どうしてここにいる? バイトできなかったなら帰りの電車賃はなかったはずだろと訊ねると「駅前に自転車が落ちてたから乗ってきた。でも、さっきお巡りさんに取り上げられた」と。それは落ちてたんじゃねぇええ!!
 以降、ヤツのバイトはカミカゼと呼ばれている。片道の燃料しか積んでいかない上に、玉砕の確率が高すぎるからだ。もうちょっと計画性ってモンを考えろよ。
 
 そういうヤツが、アパートで様々な生物を飼っている。
 窓辺の水槽には、カミツキガメがいる。水はどんより濁っていて、中はうっすらとしか見えないが、金魚を入れると一瞬で消える。指なんか入れたら、あっという間に食いちぎられる。
 冬場のコタツの中には、ミズオオトカゲ(全長1メートル)が放し飼いになっている。布団をめくると赤外線に赤く照らされたオオトカゲがシャーっと牙を剥く。「平気だから入れよ」って、冗談じゃねぇ! ついこないだ、生きたハツカネズミ(エサ用)を食い殺すトコを見せてもらったばかりじゃねぇか!
 テレビの後ろでガサガサと蠢くモノは、カニだ。爬虫類のエサ用に大量に捕まえてきたもの(東京ディズニーランド裏の海岸には凄まじい数のカニがいるのだ)が逃げ出しているのだ。それでも平気で放し飼い。あ、押し入れの中にも逃げ出したアオダイショウがいるよ。
 こんなトコだけど遠慮せずに上がれよ、というけど、誰が上がるか、そんな部屋。
 勇気を出して上がって邪魔な万年床を引っぺがしたら、タランチュラが潰れていた。そういうのまで放し飼いにすんな〜〜〜っ!
 以前に飼っていたイグアナには逃げられた。深夜にビニール紐でつないで一緒に散歩していて、コンビニで買い物しようと電柱につないでおいたけど、出てきたら紐を食いちぎって逃げちゃっていたんだって。いや、イグアナと一緒に深夜に散歩すんなよ。
 一度、そのイグアナを連れてボクのアパートにやってきたことがある。別な友人のクルマに乗せてもらってきて「ドライブに行こうぜ」と。いやドライブはいいけど、イグアナまで連れてくんなよ! クルマの中では「コイツ酔うかな?」としきりに言ってたけど、知るかそんなの。
 ちなみに、先のミズオオトカゲを紙袋に入れて(閉じていない)、フツーに電車に乗って、お茶の水の喫茶店までやって来たことがある。電車の中にせよ、喫茶店内にせよ、もしも逃げ出していたら大パニックになるとこだ。
 なお、コイツが暮らしているアパートの隣室にも友人が住んでいたのだが、ソイツがあるとき、ボソっとこぼしたことがある。いつかヤツが「オレのサソリ、こっちの部屋に来てないか?」と聞いてくるんじゃないかと怖くて怖くて、と。ああ、そりゃあ怖い。ヤツの管理じゃ、どんだけ漏れていても不思議じゃないもんなぁ。
 数ヶ月後、隣室の友人は引っ越した。
 やがてヤツも漫画家はあきらめて実家に帰ったのだが、それなのにボクの家に風呂を借りに来たことがある。
 どうした、故障でもしたのかと聞くと「風呂場でワニを飼ってるから入れないんだ」と。アホなのか、オマエは! 実際ニンゲンじゃねぇ!!

 ……そういう友人がいるのだ。
 学生時代から数十年が経った今でも、そういうヤツのままなのだ。
 世界の終末が来ても、ヤツだけは生き残るだろう。
 いつかヤツのことを漫画にしたい。
 何も脚色しなくても、十分に漫画でしかあり得ないキャラになるもんなぁ。
 本当に事実しか書いてないし、これでもヤツとの思い出のホンの一部なんだよ。まだまだ、昆虫編とか梨園事件とかペット専門店でのアレコレとか山ほどあって……。



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