●[インターネットのココロ]
国も考え方も違う人々が集うインターネットでは、現実以上に相手を尊重する気持ちが不可欠です。
30.価値観を尊重しよう
欧州各地の新聞が掲載した「ムハンマド風刺漫画」が大きな国際問題になっています。(ムハンマドはイスラーム教の預言者で、私たちの世代は「マホメット」の名で学んだが、現在ではより発音に近いムハンマドと表記される。なおイスラムも発音的には「イスラーム」が正しい)。イスラーム圏では最初に漫画を掲載したデンマーク製品の不買運動を始め、暴動も次々と起こり、死者もたくさん出ています。
作者である漫画家や、最初に漫画を掲載した「ユランズ・ポステン」紙が謝罪するなど、徐々にイスラーム諸国に配慮した発言に変化していきましたが、それでも問題の鎮静には至らず、両陣営の対立は収まりません。あまりの反応に欧州でも反発が起こり、「表現の自由」を主張する意見も強まっているようです。ある国の首相は「世界的な危機」との声明を出しています。
問題の風刺画を私は見ていませんが、ムハンマドのターバンに導火線の火が点いているようなもので、ムハンマドをテロリストと同一視するようなものだそうです。これでは、生活にも政治にもコーランの教えが反映されているイスラーム諸国が怒るのも無理のないことです。また、イスラームでは偶像の崇拝を禁じているため、神やムハンマドを描いたり、像を作ったりすること自体が大きな罪と見なされます。つまり、漫画の内容がどうであっても「冒涜」なわけです。私たちには理解しにくいことですが、イスラーム圏ではイスラーム教の教えが何よりも優先され、現在でも、法も政治も生活もイスラームの教えに従って暮らしています。日本人は、お釈迦様を茶化した絵を描いても、あまり気にしないかもしれませんが、イスラームでは「全人格を否定された」くらいの、トンデモない侮辱と感じてしまうわけです。宗教・文化の異なる相手の立場や考えを理解せずに、一方的な価値観で行動してしまうと、思ってもいない問題が起こることがあるわけです。

今回の問題は「表現の自由」を主張する欧州と「宗教の冒涜」に怒るイスラームの対立として報じられていますが、こうした問題は、どっちが正しいかではありません。相手の立場で考えれば、お互いに「自分が正しい」ことだからです。
相手の顔が見えないインターネットでは、相手を尊重するという、コミュニケーションの基本が見失われがちで、悪気がなかったのに、大きな問題や事件に発展してしまうことも多いようです。パソコンの向こうに人の顔を見る想像力と思いやりを忘れないで欲しいものです。