●[インターネットのココロ]
漫画家、デザイナー。才能で食べていく職業。確かにその通りですけど、才能とは技術や知識のことじゃないんです。
34.あきらめないことを才能と呼ぶ
去年、アニメーターになりたくて、専門学校の合間にデッサン教室に通っている、という人がウチに体験入社しましたが、話を聞いていてズレてるな、と。30歳になろうというのに今まで就職経験無し。ニートみたいな生活していたらしい。ま、それは置いといても、アニメ業界に行きたいといいながら、アニメに関する蓄積がまったくない。「○○のオープニングみたいな感じで・・・」と指示しても、伝わらないってことで、描けるかどうか以前の問題。30歳から突然アニメを目指しちゃいけないわけではないけど、オタク(それもかなり濃い)が多数いる業界なんだから、知らないなら知る努力もしなきゃ。ライバルたちは小学生時代から積み上げてきた濃厚なアニメ魂があるんだから。画力にしたって、中学生でプロ並な子がいくらでもいる世界。学校に通えば何とかなると思い込んでいるのは甘すぎる。
指摘したら来なくなりました。立ち向かう気さえあれば、支えてあげられたのに。

一昨年には漫画家になりたい子が来ましたが、これもズレていました。漫画家を目指すなら、ひたすら描く以外にないのに描かない。試しに描いたという落書きだけを持ってきた。そんなモンでは意味ないのに。そもそもウチじゃなく、まずは雑誌社に行かなきゃいけない。描いて持ち込んで、編集者とも親しくなって助言をもらえるようになる。必要なら先輩作家のアシスタントに潜り込んでテクニックを学ぶ。そして自分を信じる。いや、疑わない。なれる、なれないじゃなく、なる。
少なくともボクは自分が漫画家になれない可能性なんか、考えたこともなかったです。
でもウチに来るんです。話してみて励まして欲しいんだ、と感じましたが、この子は、まだ何もしていない。「成功するのならやるけど、ダメならやらないから誰か保証してよ」というわけです。しかも「努力が必要だよ」とか「難しいよ」といった意見は聞きたくないらしい。いやはや。
「漫画家になりたいなら、とにかく作品を仕上げて、出版社に行きなさい」と言うと、「誉めてもらえるかどうか分からないのに、どうしてそんな気になれるんですか」「自信を持てっていうけど、どうしたら自信が持てるんですか」ですって。
たぶん、一度も本気で何かに挑んだことがない子。誰かが支えてくれるのがアタリマエ、負けるくらいならやらないほうがマシ、と考えてる。負けた経験さえないくせに。

学生時代、ボクの周りには漫画家を目指す仲間が大勢いましたが、実際になったのはボクだけでした。彼らは「漫画家を目指す」と言ってみても、本当は信じてないんですね。つまらない同人誌は描くくせに、投稿や持ち込み用の作品は、描かない。「今アイディアを練ってるんだ、そのうち描くよ」が口癖。
才能はあるかもしれない、でも貶されたらどうしよう。コワイし、夢を壊されるような気がする。だから描かないし、挑めない。本気の作品を描いて、それが不評だったら心が折れてしまうから。このままだと漫画家にはなれないことは分かってる。焦りはあるけど、どうしよう。描いて、出版社に行けばいいんだ。そんなコト分かってる。でも怖いんだ。知らない人にマンガを見せるなんて。たぶん、自分は最初の勇気が出せない。ああ、きっとこのままなんだろうな。でも、他になりたい職業があるでもなし、背広着てサラリーマンなんてピンとこない。漫画家になりたい。でも怖いのはイヤだ。もうちょっと現実逃避していたい。ああ、そうやって、もう何年?。そろそろ現実をみなきゃならなくなった。今更、マンガ?。たぶん、持ち込みしてもダメだったはずさ。夢だったんだ。もう大人にならなきゃ。
実際に話してみて、彼らが言ったのは、そんなことでした。

みんな、ボクよりずっと上手かった。プロになっても、ボクは彼らの画力には及ばなかったし、今でも届いていないと思います。でも、彼らは技術は磨いても「自分を信じる力」は磨いてこなかったのではないでしょうか。結局、腕じゃないんです。才能というなら、あきらめないことこそが才能なんじゃないかと思います。