●[インターネットのココロ]
気軽で早くて、とても便利な電子メール。毎日使っている人は多いけれど、それでコミュニケーションは良くなったのでしょうか?
36.メールじゃなくてレター
電子メールが普及して何年も過ぎました。私も電子メールの受送信をしない日は、ほとんどありません。が、私自身は電子メールを書いている、送っているという意識はほとんどありません。なぜなら、私が書いているものの多くは「手紙」だから。
電子メールは簡潔に要点をまとめて書くべき、とよく言われ、短いほうがいいらしい。けれど、私のメールは長いんです。むろん急ぎのときは用件のみで数行程度のこともありますが、大半は短くとも30〜40行はあり、数百行のメールを書いたこともあります。
まず、簡潔に用件を書きます。ここだけで終われば一般的なメールそのものですが、その後に、内容の補足や自分なりの意見をできるだけ書くようにしています。私の仕事はデザインを考えたりマンガを描いたりですから、なぜ、そういうデザインやストーリーになったのか、といったことを「自分の思考の流れ」を追いかけるように書くのです。そうすることで、お客に求められたことにちゃんと応えているか、自分と自分の作品を見つめ直すこともできますし、書きながら新しい視点や価値を見つけることもあります。
もっとも、冒頭の用件部分はともかく、補足や感想まで、全部読んでもらえるとは考えていません。読んでくれれば嬉しいけれど、読まなくても用件だけは見落とさないように書くのがコツです。その上で、読んでくれれば、なお深く、お互いが理解しあえるように書くのです。
パッと用件だけを読むのと違い、一定のボリュームのある文章を読み進むには、それなりの時間がかかります。意見が合致しようが相反しようが、その案件と向き合って思考を巡らす時間が生まれることになります。そういう時間を相手に持ってもらうためにも、一定のボリュームは必要なのです。
そういう風だから、手早く書いて、即送信したりもしません。書いた文面は数時間くらい待って、もう一度読み直してから送ります。例え、大至急の場合でも、書いて即送信ボタンを押したことはなく、いったん保存してから再度開いて、読み返してから送る。長い文面で、しかも急いでいないなら、数日の間を置くことさえあります。とてもドッグイヤーのネット世界とは思えない使い方ですが、私はそれでいいと思っています。
だって、電子メールって、そもそも早いんです。送信したらすぐに相手に届く。郵便物はおろか、FAXよりも早い。そして読むのは、あくまでも人間。機械がどんなに早く動こうが、人間には人間のリズムやペースがあるのです。急いで機械の速度に合わせても、十分に検討されていなければ意味がないのですから。

電子メールは簡潔に。でも、ときどきは「電子レター」を書いて、ちゃんと推敲してみることをオススメします。