●[インターネットのココロ]
昔、ブルートレインでの旅に憧れました。おすし屋さんのカウンターに座ることにも。どちらも子供の私には届かない高嶺の花でした。
44.与えることで、奪ってしまう私たち
先月、仕事で飛行船ツェッペリンNTに乗せていただきました。現存する世界最大の飛行船で、茨城にも何度か来ているので、ご存知の方もいるのではないでしょうか。乗船するのは今回で2度目で、このときは飛行船で遊覧飛行しながら著名人にインタビューするという企画のためで、私がホストでインタビュアー。ゲストはラジオの子供電話相談室でもお馴染の先生で、とても楽しいお話を伺いました。

さて、この飛行船、ボランティアで子供を乗せてあげたりすることが度々あるのですが、先生曰く「子供を乗せるのなんて、もったいない。子供には憧れを持たせるべきで、何でも気軽に実現できちゃダメなんだ」と。
なるほど、確かに昔は子供が触らせてもらえない道具や、子供が立ち寄れない場所がたくさんありました。泥の団子や葉っぱのお皿でママゴト遊びをしながら、いつか本当の料理をしてみたいと憧れたものです。特別なことでなく、ごく普通の生活の中に、ちゃんと仰ぎ見る夢があったわけです。だからこそ子供は大人に憧れ、努力もしたのだ、と先生はおっしゃいました。
私自身も、子供にモノを買い与えてしまったり、特別な体験をさせてあげようなどと考えてしまうことがありますが、実はそうすることで、むしろ子供の力を奪ってしまっているのかもしれません。私が今、漫画家として、プロデューサーとして、仕事を続けていられるのは、子供時代にアレコレ想像し、憧れ、夢見ていたからこそなのですから。
悔しい。ちくしょう。今に見てろ。そういう思いは、何かを成すための原動力です。特に失敗の体験はかなり重要で、失敗の数だけ賢くなれるものですが、大人になると、簡単には失敗できなくなります。
ついつい、宿題やったの?忘れ物ないの?と先回りしてしまうのが親ですが、それも「忘れて困る」という貴重な体験を奪っているわけです。失敗しても親がフォローしてあげられる子供時代だというのに。失敗を何度も繰り返せる、得難い時代だというのに。考えてみれば、とてももったいないことのように思います。

高度三百メートルの低空を飛ぶ飛行船は、飛行機などと違って地上の人々もはっきり見え、ふだんは気づかない何かが見えたような気がしました。
東京の景観を見下ろす飛行船でのクルーズは素晴らしい体験でしたが、むしろ、ゲストの先生の言葉が心に強く残った一日でした。