●[インターネットのココロ〜ボクラのクウキ編]
便利や簡単のウラに潜む仕掛け人たちの本音を、利用する人たちはちゃんと見えているのだろうか。
48.広告のクウキ
某携帯電話のCMキャッチコピー「4ヶ月、加入者増加ナンバーワン」というコトバ。いかにも人気が高いように実感できるコトバだけど、見方を変えると「新参者だから新規加入が多いだけ」なのかも。
来年から距離によって通行料金を変えようとしている首都高速。走行距離4キロ以下なら四百円と今までの6割以下に下がるが、わずか4キロのために高速道路を使う人は少ない。一方、最も利用される最長距離だと千二百円になり、7割以上もの値上げになってしまう。明らかな詭弁。
スイカ、ETC、ナナコなどの電子マネー。確かに便利だけど、財布からお金が出ていくわけじゃないから、お金を使ったという実感に乏しい。ということは、本当は便利な世の中にするためじゃなく「財布のヒモを緩めるため」なんじゃないのか?カード破産などが慢性的な社会問題になっているのに、本当にこれでいいのか?

広告に限らず、何かを伝えるときには、内容、言い回しなどによって印象が大きく変わることがある。ボクは広告を作る側の人間なので、そういう例を見慣れていて、自分も同業だからこそ、特に送り手(広告制作者)のホンネも見えてしまう。売れてほしい、買ってほしいから、イイトコをたくさんアピールしなくちゃ。買い控えたり、お金を使うのを我慢したりさせたくない。もっと、もっと、もっと。
まぁ、広告なんだから仕方ない。ボクだって、そういう気持ちで作ってるし、魅力をアピールするのはアタリマエだし。ただ、広告は不特定多数の人に影響を与える。誰もが真剣に隅々までチェックしてモノを買うとは限らない。一番目立つキャッチコピーだけに引きずられて買った揚げ句、トラブルなんてことになったら大変だ。広告は広告主のものでも、作った以上ボクにも責任がある。何のリスクもない完璧なサービスなんてものはこの世に存在しないけれど、作る段階で気づいた問題は解決しておきたいのだ。

むろん、ボクは経営コンサルタントではないから、依頼主を指導するような立派なことは言えない。でも、その広告を見る一番最初の消費者ではあるのだ。消費者の一人として、疑問を感じたことや妙に思ったことは言ってあげるべきだと思っている。だから、広告を作る打合せの席や取材の時に、依頼主にツッコミを入れるようにしている。企業やお店の内情も知ってるから、サービスの善し悪しだけでなく、そのサービスを続けていける根拠などにも触れるようにする。それで何かが変わることもあるし、変わらないとしても、弱点に気づいていれば、誤解を生じないような言い回しやデザインを心がけることが出来るからだ。

広告の仕事は、お客や世間のクウキを読むことだ。広告を見たお客が「ここはどうなってるの?」「こっちはどうなの?」とツッコんでいるのに、無視して喋り続けるような広告なってしまっては一大事だ。全然ウケないコントみたいになると、やればやるほど客が引いてしまう。広告屋として一番コワイ。
そこでボクは広告を作るとき、それを見る人を具体的に想像しながら作ってる。広告目的や内容によって、オトコだったりオンナだったりコドモだったりするけど、作りながら「誰か」と話しているのだ。この商品いいでしょ?このサービスがたまんないでしょ?と。するとアタマの中の誰かが聞き返してくる。所詮は妄想なんだけど、相手の気持ちを無視してはコミュニケーションは成り立たないのだから。

この秋より金商法が改正され、ファンドサービスなどはこれまで以上にリスク部分をちゃんと説明し理解させてからでないと販売できなくなった。ボクが担当していたファイナンス会社のホームページでは全面見直しをしている。商売だから過剰に不安を煽るわけにはいかないけど、十分な説明責任は果たさねばならないから。
反響を、集客を狙い、効果的な言い回しや表現を追いかける広告。だけど、いや、だからこそ誠実さ正直さが不可欠だと思う。それは信用という一番の魅力でもあるのだ。「正直」という力を最大限に生かす広告を、ボクは追いかけたい。