●[インターネットのココロ〜ボクラのクウキ編]
先月末、とある著名芸能人がボクのオフィスを訪ねてきて、対談した。役者であり、バラエティや紀行モノの番組もやっていて、日本人の多くは必ず知っている人だ。でも、この対談は仕込まれたモノであって、ボクが著名芸能人と交流があるわけではない。年末に、電話があったのだ。
50.取材のクウキ

「こちらは○○という出版社でして、当社の本であなたを取材したいのですが?インタビュアーは有名芸能人の○○さんです、ご存知ですよね」

ボクはこれまでにも取材を受けたことが何度かあるのだが、今回のは通常の取材申し込みとは感じが違う。取材対象のはずのボクのことを、あまり知らないのだ。誰かから名前を聞いただけという感じ。ボクはWEBサイトを公開しているし、普通の取材であれば、そういうモノをチェックして検討した上で問い合わせしてくる。すぐにピーンと来て、詳しく聞いてみると、やはり有料の営業だった。掲載料は一番小さな枠で7万円で、最大の2ページ・フルカラーだと100万単位のようだ。一番安い7万円で、取材を受けることにした。
いや、取材記事が欲しかったわけではないし、有名芸能人に会いたかったわけでもない。体験してみたかったのだ、こういう営業取材を。著名人を起用した営業取材があるというのは、以前から聞いていた。良質なサービスや事業をちゃんとやっているのであれば、マスコミを上手に利用して宣伝するのも有効なことだから、ボクもお客には、そういう営業取材を利用するのも有効だと話していた。しかし、ボク自身が体験した取材は「本当の取材」であって、営業取材じゃない。どんな取材をし、どんな記事が書かれるのか、知っておくべきだろう。

雑誌社の担当記者、カメラマン、有名芸能人が揃ってやってきたのは、その数日後のことだった。今日一日で茨城県内を4カ所回るのだと言い、ボクが一番手。インタビュアーとなった有名芸能人さんは、最初はボクを単なる個人業の広告デザイナーだと思っていたようだが、実は漫画家で、それなりの実績もあることに気付くと、さりげなく先生と呼ぶようになった。テレビで見た通りの人で、話し方、聞き方も上手く、慣れた感じだ。カメラマンは要所要所で撮影を続けていたが、記者は、あいづちを打つ程度。まぁ、インタビュアーではないのだから、記者というよりも営業マンなのだろう。約1時間ほど話し、握手をして写真を撮り、帰っていった。
そして半月ほど過ぎて、その雑誌社から原稿が出来たので確認してくれとメールが届いた。読んでみると、取材時に話したことは、何も書いていない。どう考えても、ボクの名刺に記載されている事業内容を丸写しして、ホンのちょっと文章を付け足しただけのもの。あんまりなので、丸ごと自分で作り直して「取材記事」らしい文章にして、送り返した。

う〜ん、仮にも記者なら、もう少し臨場感のある文章を作れるのでは?7万円という枠は小さな枠だから、突っ込んだことを書ききれないのは分かるけど、先方が作った記事を読む限り、録音テープを聞き返していないことは明白。著名芸能人さんは、ちゃんとインタビューしてくれたのに。
結局、この手の取材は芸能人の知名度をダシにしただけのモノなのだろう。支払う代金の大半は、著名芸能人さんへのギャランティと掲載料と考えていいだろう。つまり、原稿の執筆料や編集費は、ほとんど計上されていないようなものなのだ。取材にやってくるのも、芸能人とのツーショット写真を撮影するだけの理由(雑誌に掲載してあげて広告主の自己満足を満たすだけの)だとしか思えない。
いや、例えそうであっても、雑誌に載ったということ自体を上手に利用して、営業の助けにするという意味では、多少の効果はあるだろう。編集サイドが、そういう記事を作ろうとしていれば。先方が送ってきた文章には、そういう姿勢は感じられなかった。いくら何でも名刺の丸写しはないだろ!
そういうわけで7万円は正直もったいなかったが、こうした取材の実態が分かったのだから、ボクの目的は果たせた。小さな経営者や商店主は、なけなしの予算で広告や取材費用を捻出している。少しでも、その熱意や事業の良さを伝えようという気持ちがあってこそ、費用を求めていいのだとボクは思う。取材料を取ろうが取るまいが、その誠意がなければ、記事は「取材を受けるような会社のフリをしてお客を惑わす」だけのモノになってしまう。
タウン誌なども含めて、営業取材それ自体は悪くないと思うが、発行する側には、単なる営業というだけでなく、記者としての誇りや覚悟を持っていてほしいと思うのだ。