●[インターネットのココロ〜ボクラのクウキ編]
最近は、かつて職人の仕事だったものが、どんどんデジタル技術に取って代わってきている。しかし、それで本当に豊かに、便利になったのだろうか。

52.ユーザーのクウキ

今では、多くの家庭で使われている「IHクッキングヒーター」ってのがある。火を使わないから便利で安全なのだけど、アレ、対応していない鍋やフライパンが使えないんだよね。下手に買い替えると、調理器具一式まで買い替えなきゃならなくなって、トンデモない散財って羽目になる。そういう散財も止むなしっていうメーカーの考え方にも疑問だけれど、それでも買い替えればなんとかなるなら、まだマシなのかもしれない。何で調理しようが作ったモノは食べられるんだから。しかしパソコンの世界になると、作ったモノが食べられない、なんてコトが起こる。
最近、パソコンを買い替えた。
しかし最新機種ではない。4年前から使っていたモノが故障したので、それと全く同じモノを、中古を探して買ったのだ。中古なのに、値段は最新型よりもずっと高い。
なんで最新機種を買わなかったのかと言えば「役に立たない」からである。
パソコンは、プリンタやスキャナといった周辺機器の中心になるモノで、それ単体で考える道具ではない。いくら新型が便利でも周囲の道具と合わなければ使えないのだ。ボクは広告デザインやマンガの仕事をしているから、パソコンで作ったモノを注文主に渡したり、印刷会社に回したりしなきゃならない。他人が作ったデータを受け取ることも多い。いや、ネットワーク時代だから、ボクだけじゃなく普通の人でも、そういうことが多いハズ。自分以外の環境まで考慮して、パソコンやソフトを選ばなければ互換性がなくなってしまい、ネットワークが生かせなくなる。自分だけ新型でも、なんのイミもない。
一般の人は、プロはさぞや最新の環境で仕事してるんだろうと思うようだけど、実は一般人よりバージョンアップは遅いのだ。少なくともボクは、取引先などまで含めて、周囲の全てが新型に切り替わるまで、旧型を使い続ける。自分が本当にソレを必要と思うまでは、バージョンアップなんか絶対しない。新型がどんなに便利であっても、そんなもん、知恵とテクニックで十分以上にカバーできちゃうからね。
ボクの場合は、印刷会社が一番大きなポイントだ。印刷会社は家庭用プリンタなんかと比べ物にならないくらいの、高価な印刷機を使っている。当然、バージョンアップなどの費用も高額になるし、場合によっては機械ごと買い替えないと新しい環境に対応できないこともある。が、印刷業界が冷え込んでいる現在、数千万円もする機械を、そう簡単に買い替えられるものではない。だから、古いシステムのままで使っている会社も多く、そこでは新型のソフトで作ったデータは印刷できない。そして恐ろしいことに、そういう印刷会社でも安心して使えるソフトは、今では購入できないのだ。ソフトメーカーは、市場の商品をどんどん新型ソフトに入れ替えてしまい「キレイに作れるけれど印刷所に持ち込めない」ものしか、売られていないのだ。電子マネーの「スイカ」でしか切符を買えないけれど、改札機はスイカでは通れないようなモノ。不思議の国のアリスか?理不尽きわまりない。
「高額な印刷機を頻繁に買い替えてくれる、ちゃんとした印刷会社なら大丈夫ですよ」とメーカーは言いたいのだろう。そんなバブルな会社がイマドキいくつあるんだ?
メーカーはもっと便利に、もっと多機能にと、どんどん新製品を送り出してくるが、世間が本当にソレを必要としているかと言えば、そうではない。以前のモノを殺すんじゃなくて活かすやり方だって利益は出せるはず。メーカーには「ユーザーのクウキ」をちゃんと読んでほしいものだ。