●[インターネットのココロ〜番外編]
内藤大助と亀田大毅の世界タイトルマッチから10日近くが過ぎ、亀田選手本人も内藤選手に謝罪し、世間の亀田バッシングもようやく終息したかと思っていたが、まだまだマスコミはあきらめないようだ。

亀田兄弟のコトはもういいんじゃない?
2007年10月20日。この日はボクシング・ライト級の日本タイトルマッチがあり、ボクも挑戦者のリッキー☆ツカモト選手(リッキー・スター・ツカモトと読む)の応援のため、後楽園ホールに駆けつけた。
彼は、内藤大助と同じ宮田ジム所属の選手で、内藤選手同様、33歳。コツコツと積み上げたボクサー人生13年目にしてやっと掴んだ初のタイトルマッチ。何度か話したことがあるが、腰が低く礼儀正しい好青年なのだ。内藤選手は初めて観た試合から鮮烈だったけれど、リッキー選手は何度も観ているうちに好きになった。今では、内藤以上に魅力を感じている。残念ながらこの日、リッキー選手のタイトル奪取は成らなかったが、試合は白熱した接戦であり、最後まで堂々と闘ったリッキー選手には大きな感動をもらった。
さて、試合後の控室でリッキー選手を激励して家に帰り、インターネットのニュースサイトを見てみると、そこには「亀田大毅、車内で内藤大助と対面し謝罪(毎日新聞)」などの見出しが。試合結果を報じているのは時事通信の1件だけで、その他の記事はすべて、リッキー選手の応援に来ていた内藤選手の亀田騒動に関するコメント。しかも、すでに報じられている内容の後追い記事に過ぎない。
・・・・・・。
もう、いいんじゃないだろうか?亀田選手のコトは。
実はボクは、縁があって数年前から宮田ジムの試合を観戦し続けており、問題になった10月11日の世界タイトルマッチでは、内藤選手のパンフレット、セコンド陣のシャツや帽子などのデザインを担当させていただいた(ポスターは、ボクの営業パートナーが担当している)。亀田一家の傍若無人ぶりはパンフレットやポスター制作の現場にも及んでおり、チャンピオンサイドに写真もコメントも提供しないといった対応には、ボクもムッとなったものだ。直接応対していたジムスタッフは、もっと腹立たしいことが沢山あったと聞いていて、マスコミが報じる以上の背景も知っている。
でもね。
亀田選手のコトは、もういいじゃないか。少なくとも、精一杯闘って破れた選手の控室に押しかけて、当人を無視して大騒ぎしちゃ失礼ではないですか。
内藤選手も宮田ジムも、注目選手であっても反則、恫喝、非礼がまかり通るのはマズイからコメントしていただけで、一連の処分と謝罪で「この問題は終わり、もう遺恨はない」とコメントしている。ボクもアンチ亀田で、これまでの問題発言や行動は嫌いだったけれど、もう、皆さん溜飲は下がったでしょ。正直、ボクは食傷気味だ。

内藤本人がコメントしているように、亀田大毅は(いい選手なのかどうかは素人なので分からないのだが)必ずしもダメ選手ではないと思う。実は10月11日の試合では、内藤選手のデキもイマイチに感じた。ボクは10月3日の公開スパーリングにも立ち会ったのだが、そのときのほうが、ずっと動きは鋭かったように思う。だから、亀田選手も反則などせずに本気で闘えば、チャンスがあったのではないかと思っている。実力では及ばないだろうが、ボクシングは何があるか分からない。

だから、反省し出直せば、いい選手になる可能性はあるんじゃないかと思う。当人はまだ少年と言っていい年齢だし、騒ぎすぎて再起の芽を積んでしまうのも、大人げないではないか。かつて問題のあった人物が更生し、素晴らしい選手として開花していく。そんな魅力的なストーリーが見られるかもしれないのだ。ボクは、このまま亀田兄弟が叩かれて消えていくより、そうしたドラマのほうが見たい。
そうなるかどうかは分からないけれど、可能性を立ち切ってしまうのは避けて欲しいと思う。そんなコトより、せっかくボクサーが注目されたのだから、その素晴らしさを伝えて欲しい。

リッキー☆ツカモト選手は、本当にいいボクサーだし、チャンピオンの長嶋建吾選手(18歳・古河ジム)も、素晴らしい選手だった。会場では、オバチャンもオッチャンもネーチャンもニーチャンもオコサマも、みんな声を枯らして応援合戦。観客も選手と一体になっていた。
あの素晴らしい空間。そういうことをちゃんと報じて欲しい。

ゴシップ的な記事やニュースのほうが話題になるのは仕方ないけれど、だからってソレだけしか報道しないっていうのはヘンだ。亀田兄弟のニュースは、亀田家の話題であってボクシングそのものの話題ではない。ハンカチ王子も、ハニカミ王子も同じで、野球やゴルフが注目されているわけではないと思う。

試合後の控室。その前の廊下で内藤選手に群がる取材陣。一方、控室の中は静かだ。
はっきりは誰も口にしないけれど、年齢的にも、これが最後のチャンスと覚悟していたリッキー選手。ボクも、何も言わずに、ただ彼を見ていた。何発もパンチを浴びて、腫れ上がった顔。男の勲章。
記者たちが引き上げ、内藤選手も立ち去り、みんなが帰り支度をはじめたとき、一言だけ、声をかけた。何と言っていいか分からなかったけれど、これだけは言いたかった。
「これからもボクはキミのファンだから」
彼は笑って握手してくれた。涙をこらえていた、と思う。

素晴らしい選手は、内藤大助だけじゃない。せめてボクは、それを伝えたい。


追記(07年11月1日)
リッキー選手は、トレーナーとして再出発することになったと聞いた。リング上での彼の姿を見られないのは残念だが、彼はきっと素晴らしいトレーナーになってくれると思う。選手じゃなくなっても、やはりボクはリッキーが好きだ。


追記2(08年3月30日)
リッキーさん、御結婚おめでとうございます。アームズ菅谷氏が、お二人の写真を送ってくれました。結婚しようが、やっぱりボクはリッキーが好きだ。腰も低くて、いい男だしね。また会えるのかどうかは分からないけれど、幸せになってほしいと本当に思う。



うるのクリエイティブ事務所代表:うるの拓也