●[広告漫画家のつぶやき]
01.大人気ないマンガ業界(金色のガッシュ原稿紛失問題)
「金色のガッシュ」の原稿紛失問題で、作者の雷句誠さん(http://88552772.at.webry.info/)が小学館を相手に訴訟を起こした。
このことについては、多くの有識者やブロガーが沢山の意見を書いており、何を今さら、という感もあるのだが、ボクもこのことで色々と考えさせられた。
といっても、何かを考え直したわけじゃなくて「ボクは雑誌にこだわらないことにして、本当に良かったなぁ」と、改めて感じたってことなのだけど。

雷句誠さんが訴訟に踏み切ったのは、単に原稿を紛失された、賠償額が低すぎるといったことではなく、出版社(あるいは編集者)に対する不信が噴出した結果なのだろう。「原稿紛失」という実害を掲げたのは、そうしないと第三者にも分かりやすい論点にならないからじゃないかな。
もっとも、ボクは雷句誠さんを擁護しようとか、逆に反論しようとか、そういう考えは持っていない。「そういうことがあるという話はよく聞く」けれど、自分で確認したわけではないし、ボクも(同じではないが)似たような経験を何度もしたしね。彼の状況に同情はするけれど、漫画家って「個人事業主」だから、そういう経験を積み重ねることで「そもそも、そういうことが起こらないようにしていく」ものなんだよね。

でも、こういう話を聞く度に感じる。
「お互いに大人気ないなぁ」って。

陳述書の内容を鵜呑みにしないとしても、作家が不満を感じていたことは確かだろうし、だったら編集者は、それを解決して円満な人間関係を作る工夫をすべきだよねぇ。仮に雷句誠さんのほうに非があったとしても、編集者側が「大人の対応」をしなきゃ。作家の不満やストレスや悩みをできるだけ減らしてやって、作品に打ち込めるようにするっていうのが、編集者の仕事だろう。

作家を罵倒したり、無茶を押し付けたりする編集者のハナシはよく聞く。
新條まゆ先生のブログにも「三流漫画家と罵倒される」「単行本を出さないぞと脅された」などの暴露話が書かれていた。そういうモノを全部を信じたりはしていないけれど、ボクも経験者だから丸っきり嘘とも思えない。
実はボクは同人や自費出版でない限り、最終的には編集の意見に従うべきだと思っているのだけど、だからって暴言を吐いていいわけではない。
そういうのを世間では「パワーハラスメント」っていうのだ。

ボクは、そういう状態なら、描かないなぁ。
普段やっている広告マンガの仕事でも、ボクは責任持ってちゃんと描ける状況じゃないなら、断ることが多い。不本意な仕事をしてしまうと、後々に響くからだ。
読者への責任はど〜するって意見があるだろうけど、マンガは創作物で、創作はメンタルな仕事。精神的にまいっていたりすると、イイモノが描けなくなる。いつもベストな状態というのは無理だけれど、できるだけ良い環境を維持することだって仕事の一部だし、そもそも不本意な状況で作られた不本意な作品を世に出すってのは、(作者の側から見れば)確信犯で不良品を作っているようなモンでしょ。

ボクが若い頃、先輩の先生に江口寿先生のコトバを聞かされたことがある。
今でもボクの座右の銘になっている。
編集や出版社を裏切っても仕事は続くけれど、読者を裏切ったら終わりだ
正確ではないけれど、そういう意味のことだった。
納得いかない作品を出して読者を裏切るくらいなら、オトしちゃえっていうわけだ。
本当に江口先生の発言なのか、真偽は明らかじゃないんだけど、江口先生なら言いそうなコトバではある。
乱暴な意見ではあるけれど、これは正しいと思う。
編集の言いなりになって不本意な作品を出せば、読者は離れる。読者が離れてしまえば、編集も使ってくれなくなる。どんなに犬のように仕えたとしてもだ。
逆に、編集に逆らおうが読者の支持を得ていれば、切られることはない。彼等は商売でやってるんだから、売れると分かっている作家を手放したりはしないハズなのだ。

だから、オリちゃっていいんだと思う。
編集者の言いなりにならなきゃ描けない、でも言いなりに描いてはマズイ、というのなら、オリるしかないでしょ。言いなりになって続けたところで、作者としては読者を欺いていることになるんだから。やっちゃいかんだろ。

ちょっと嫌なことがあるというだけで仕事を投げ出しちゃいかんけれど、スゴく嫌なら、オリちゃうほうがお互いのためだし、結果的に読者のためでもあると思うんだよね。
例えば病気や事故など、やむを得ない状況なら、休んだり最悪連載自体を止めてしまったりしても、ファンは許してくれると思う。
ボクは許すよ?そればっかりは仕方ないもの。
で、陳述書に書かれたような状況だったのなら、それは病気と一緒だからね。

そりゃ愛する作品を途中でやめるのは断腸の思いだろうけれど、耐えられない程辛ければ、辞めちゃう勇気も必要じゃないかなぁ。「どうせ描くんだろ」って思われていたら、いつまでも状況は改善されないもの。乗客の迷惑だからストはしないって言ってたら、キリがないもの。その作品は不本意に終わる事になるとしても、そうすることで今後が改善されていくなら、それは作者にも読者にもいいことだし、本当によい作品なら、復活のチャンスもあるんじゃないだろうか。

さらに言えば、連載マンガってのは、本質的に「出版社のプロジェクト」なんだよね。マンガを売るっていう事業をやっているのは出版社であって、漫画家じゃない。
そうである以上、プロジェクトを継続していける環境を維持するのだって出版社の責任。劣悪な労働環境(パワハラもその1つ)を放置して制作者がスト起こしたとしても、仕方ないでしょ。
だいたい、マンガの連載って、契約書とかないでしょう?
急に辞めたって、いいはずなんだけど?

それでも辞められないのは「収入の問題」があるからだと思うんだけど。
下手な真似をすれば収入の道が断たれちゃうもんね。
実は、ボクはこの問題が一番大きくて、しかも歪んでいると感じている。
ボクがずっと思い続けてきた事。
それは
漫画家という職業は、実は職業の態をなしていないのではないか?
ということ。
夢があり、やりがいもある漫画家という素晴らしい仕事を、本当に最後まで続けていくためには、どうすればいいのか。
ボクは、それを、このコラムを通じて考えていきたいと思う。