●[広告漫画家のつぶやき]
11.漫画家は絶対に就職できない
漫画家は絶対に「世間で言う就職」はできない。
職業として漫画家を名乗ると言うだけなら、デビューしていようがいまいが、関係ない。世間で言う「就職」とは、実は「就社」のことだから、その意味で、漫画家は就職できませんね。
ま、当たり前ですけど。

出版社で連載していようが、社員ではないし、連載期間の保証もない。たまたま今は連続して仕事が入り続けているという程度のモンであって、雇用保険もなければ失業手当もない。どこまでいっても個人事業主(便宜上、会社形式にする例は多いけど、実態としては個人業)。
漫画家になるってコトは、そういうことなんです。

そして、個人事業主としての漫画家を考えると、とても歪んでいて、非常識ですらあります。
事業としてのリスクマネジメントがまったく考えられていない。

だって、どれほど大きな出版社の有名な雑誌に連載していようが、しっかりした契約書なんかないでしょ?原稿料ですら、振り込まれれるまで分からないなんてのはザラ。そんなこと、他の業界ならあり得ないですよ?

そして、そんな状態なのに、取引先は常に1箇所(が普通)。
それって、現在の取引(連載等)が終わっちゃったら、収入源を全部失うってことですよ?ボクだったら、恐ろしくって、そんな状態じゃ仕事できないですね。実際、ボクは大きな取引を1つ取るよりも、小口の取引を沢山にするように気をつけています。A社との取引きが終了したら、収入が10分の1になる、なんて状態では「本来ハッキリ言うべきことも言えなくなる」し、それは、結果的にA社のためにならないですから。それに安定的に継続していけるかどうかも、取り引きする上では大事なことで、いつ倒産するか分からないような会社には、いくら腕が良くても仕事は頼まないモンです。だから、事業主はリスク分散して、少々のトラブルでは揺らがないように努力するモンです。
同じ個人事業主なのに、漫画家にはそれがない。
特定の取引先に依存しちゃってる。
というより、そうなるように暗黙のルールがある。
漫画家が背負うリスクはほったらかしで、そうせざるを得ない状態になってる。

ボクは、これが一番問題だと思いますね。

そもそも、普通の商売では「A社をやっているのでB社までは無理」という状態が続けば、B社は諦めて他所と取引きをはじめますよね。で、A社の仕事が終わったからといって半年後に「やれますよ」と言ったところで、今さら遅いわけです。
1000万円の仕事でも、それに1年かかりきりなら、受けないほうがマシ。今年は高額収入でも、来年以降は既存の取引先を全部失って、路頭に迷います。
特定の仕事に縛られてしまうというのは、本当にコワイことなんです。
もしも、ボクの元に1000万円で1年かかりという話がきたら、何人かで分業して、他社の仕事も続けながらやるしかないでしょう。それがダメなら、元の仕事量には戻れなくなるのだから、その後の保障もつけてよ、ってコトになる。
どっちもダメならお断り。1000万円や2000万円で人生全てを売れるもんか。

それが普通なんです。
普通でないことがまかり通るのは、先にも書いたけれど、「今がゼロで失うものがないから」でしょうね。でも、そんなの最初だけ。オクサンとか我が子とか、失いたくないものを、やがて持つようになると、曖昧なことに全てを賭けるなんて無茶はできなくなりますよ。

そういう、普通の感覚を、世間知らずの新人漫画家が持ってないのは仕方ないように思うけれど、大人である出版社は考えてあげるべきだと思います。
そうじゃないと「ギャンブル」でしかない。
未成年に投稿や持ち込みを奨励して、ギャンブルに引き込んじゃいかんでしょう。

もし、出版社が他社との取引きを制限したいなら、暗黙のルールじゃなくて、きちんとした契約書を作って、一定の保証をすべきだと思っています。
別に打ち切るなとは言いませんよ。マンガ雑誌を1回出すだけだって、トンデモないお金がかかりますから、人気がなければ、さっさと切らなきゃ、大勢の人が困るでしょうから。
ただ、最初に20回として契約したなら、途中で打ち切ろうと、その分は支払うべきでしょう。出版社はマンガのプロなんだから「この作家で、どの程度イケるか」を読んで勝負するのがスジでしょう。自社商品を出すメーカーやお店だって、それぞれに自分で見込みを立って仕入れたり、在庫を増やしたりして勝負しているわけで、それと同じことだと思います。
「Aという漫画家の作品(商品)を20週分仕入れよう」ってことでしょ。
見込み違いで売れなかったとしても、最初に契約ロット数があるなら、そこまでは保障してやるのが当たり前。売れなければ「在庫処分セール」の本でも出せばいいでしょ(乱暴な発言だけど、人気商売で人気が出なかったのなら、漫画家もそれを甘んじて受けるしかないと思います)。

ちなみに個人的には、印税がどうのというより、プロ野球選手のように「年棒契約」にしてもらい、毎年「契約更改がある」のがいいなぁ。
今年ボクはこれだけの人気を得て、これだけ単行本も売れたから、来期はン千万で契約してくれって。で、折り合ったところで契約。人気作家を「年ン億の5年間」で契約するって言うのもアリだろうし、イマイチだけど2軍ってコトで数百万で契約しとくってのもアリ。受ける受けないは漫画家次第。
これでいいって人ばかりじゃないだろうから、印税形式も選べるようだとバッチリかな。

これも個人的ながら、漫画家って何十億も稼がないとやっていけない職業じゃないと思うんだよね。いや、成功者がそれに応じた報酬を得ることはいいと思いますよ。
でも、業界としては、後進の育成も大事でしょ?
だとすると、成功した作家には、例えば「新人支援ファンド」とか「低金利の漫画家助成金制度」とかに投資してもらって、その資金で売れない時代の新人を支えるとか、そういうのがあってもいいと思うんですよ。それこそ出版社が音頭を取ってやればいい、と。漫画家たちがやらないなら、ファンドビジネスやっている人たちとかが立ち上げてもいいし。
投資なんだから、売れたらソコから利益が配当されるはずで、そんなに悪くないような気もするけどなぁ(少なくとも投資者は支援者=ファンでもあるわけだし)。


とにかくね、人材を集めるには「生活者として成立する環境」を整えることも考えるべきだと思いますね。「夢」というヴェールで隠してないで。