●[広告漫画家のつぶやき]
13.広告でマンガを描くのは、本当につまらないか?
広告マンガやビジネスマンガ(マンガで分かる何とか入門みたいなヤツ)のほとんどは、つまらない。丸っきりダメとは言わないけれど、マンガ雑誌に連載されている人気マンガに比べれば、全然面白くないことが多いと思います。
もちろん、ボクが描いているのだって、本当に面白いかどうかは、正直ボクにも分からない。でも、それは売れてる人気マンガだって同じで「売れてるんだから、これでいいんだろう」と信じて描くしかないんですよね。とにかく、いいものを描こうとは思って、本気でやる。それだけは心掛けています。

さて、広告マンガの面白さについて語る前に、広告マンガとフツーのマンガの決定的な違いについて、最初にお話ししておきましょう。

それは「作品自体は売り物ではない」という点。

CMがいくら人気でも、商品が売れなきゃ高い金を払ってスポンサーになる意味がない。マンガそのものがいくら売れたって、扱っている商品が売れてなければ負けなんです。逆に、マンガはイマイチでも、商品を買いたい気持ちに導くことができれば勝ち(この辺も漫画家が嫌がる理由の1つでしょうね)。
とにかく「マンガという表現手段を使って商品を売り込む」のが、広告マンガの役目で、オリジナル作品を描くのとは目的も目標もまるっきり違います。

そうしたことをちゃんと理解して取り組む必要はあり、そのためには広告知識(マーケティングやらターゲッティングやら)の勉強もしなきゃならないんですが、それでもボクは、そんなに難しく考えてはいません。

ボクにとって広告マンガは「笑点の大喜利」ですね。
クライアントさんから「お題と条件」が出され、そのお題に合うネタを披露する、という感じ。お題は決められているけれど、やってることはフツーのマンガとそんなに変わらないんです。
商品を売り込むなんてのも、つまりは劇中の小道具として商品を活躍させればいいというだけのこと。
ちょっと前に週刊少年サンデーで連載されていた「D-LIVE!」というマンガがありました。どんな乗り物でも操縦できる特殊能力を持った主人公が活躍する作品で、実在の乗り物が毎回登場し、その力を最大限引き出して事件を解決していく、というモノ。アレなどは広告マンガそのもので、そのまま、その乗り物のメーカーに買ってもらえそうです。
ほら、やれちゃうでしょう?

広告だからって、ややこしく考えなくてもいいんです。
基本的に「読みきり」であること、「お題と条件」があること、過激なバイオレンス描写や性的な描写などがしにくいことなどの制限はあるけれど、SFでも、学園ものでも、ラブコメでも、スポ根でも、ちゃんとやれちゃうんです。

「でも、実際には、そういう広告マンガって、見ないよ?」
「どうせ、商品の説明シーンとかクドい展開になっちゃうでしょ」
といった声もあります。

でも、それは広告マンガをプロデュースする担当者が、マンガを分かってないから、そうなっちゃうだけでしょう。フツーのマンガだって、延々と説明シーンだけが続くような展開ではつまらないわけで、説明が必要な場合でも、読者が飽きないように工夫するのが当然でしょ?SFマンガで、細かい科学考証をして描いているとしても、ダラダラ説明したりはしないでしょ?
だから、ボクは劇中でダラダラ説明なんかしないんです。そういう細かいことは、別途「解説ページ」とかコラムでやってもらう。マンガの中では、そういう「別途部分まで見たくなるように仕向ける」だけに注力するんです。

広告マンガを依頼されるとき、一番多い理由は、
「普通の広告では見てもらえない(あるいは目立たない)」
「商品をマンガで分かりやすく伝えたい」
といったものです。

まず、見てもらうためには、つまらないマンガでは読みたくないでしょうから、面白くしなきゃダメですね。
マンガであれば見てくれる、なんてのは、単なる思い込みという勘違い。ま、単なる広告より目立つことは確かなんですが、広告だからこそ面白くなきゃダメな部分はあります。
だから、広告じゃなくてエンターテイメントにしようとは、常に思っていますね。
「あらすじ」を語ったら商品のコトだけ、なんてのは描かない。
もちろん、広告としての役割(職分も)を踏まえた上で、ですけど。

それから「分かりやすく伝えたい」のほうですが、じゃあ普通の広告は分かりにくいのかってコトになりますが、そんなコトないんですよ。デザイナーさんやレイアウターさんやプランナーさんが、あの手この手で工夫しているんですから。大抵の広告は見やすく、分かりやすくなるように作られているんです。
それが伝わりにくいのは「読者が興味を持ってないから」です。

つまり広告マンガっていうのは「説明する」んじゃなくて、
マンガで読者を引き込み、宣伝したい事柄への興味を喚起すること
が役目なんです。

実際の解説は、普通の広告に任せちゃっていいんです。
そういうことを、キチンと広告主に説明できずに描かれてしまうから、説明したがる広告主の主張に引きずられてしまい、広告マンガがつまらなくなる。広告主のことを本当に考えたら、そのやり方ではダメだ、と言ってあげないと。

ボクの場合は、依頼主にそういう説明をちゃんとして、もちろん「広告部分」をどうすればいいのかまでも提案して、お互いに納得してからマンガに取りかかります。
ほとんどの方は分かってくれます。
どうしても分かてくれないときは、断っちゃう。
無理して引き受けても、いい結果にはならないし、それじゃお互いに不幸だから。
だから、マンガ自体は「面白いものを描こう、エンターテイメントを目指そう」というだけなんですね。
オリジナルを描いてたときと、そんなに変わらない。

では、実際に面白いかどうか。
それは約束できないし、ボクの広告マンガをつまらないと感じる人もいるでしょう。
ギャグが肌に合わない、とかね。
誰にでも必ずウケるものを描けたら神様で、どんな広告でもヒットさせられるのなら、筑波の隅っこでチンマリと仕事なんかしてませんって(笑)。

ただ、面白いものを描こう、いいものを描こうとはいつも思っているし、何度もネームを切り直したり、コスト度外視で頑張っちゃったりもしてます。
そして、広告でだって、本当に面白い作品は作れると信じていますし、そういう仕事を楽しいと感じています。