●[広告漫画家のつぶやき]
17.どこまでアマイ?漫画家志望のトンデモキッズ
ボクは、このコラムで漫画界はキビシイ、キツイ、オカシイってコトばかり書いてきたけれど、別に投稿や持ち込みをするなと言いたいわけじゃない。
むしろ、どんどんチャレンジしていただきたい

ただ、人生を賭けたバクチには違いないから、なんの覚悟もビジョンもなしでやっちゃダメだよ、と言いたいだけなの。
会社に就職するときも、会社に入ることより、続けていくほうが大変。
結婚することより夫婦円満であり続けることのほうが大変。
そういうのは漫画家も同じだから、なってどうするか、どうやって続けていくかを、ちゃんと考えた上で挑んでね、ということなのだ。
「オレの野望人生」なんていう妄想じゃないぞ?とんとん拍子でウマくいく妄想もワルくないけど、思ったようにいかないときに、どうやって乗り切るかを考えろってコトだよ。撤退するのか、踏み止まるのか。踏み止まるなら、どうやるのか。ソレを考えておかないと、ちょっと思惑通りにいかないだけのコトでダメになっちゃうからね。人生、思惑通りにならないことのほうが多いんだから。

で、そういうことをキチンと踏まえた上で挑むっていうなら、ガンガン投稿して、ドンドン持ち込んでもらいたいと思う。特に若い人は、失敗したところで何度だってやり直せるんだし(年をとってからでもやり直しはできるけど、若いほうがラク)、自分の可能性を信じて挑んでほしいと思う。

ただし、やるからには全力で、ね?

・・・ボクのところに「持ち込み作品をみてください」って持ってくる子が、ときどきいるんだよ。ボクは出版社じゃないわけで、ボクが見たってデビューできるわけじゃないんだけど、ま、どこぞの編集部に行く前に批評を受けたいっていう気持ちも分かるから、見てあげるんだけど。

・・・ただの下描きだったり、設定スケッチだけだったり、ほとんど真っ白だったりするんだよなぁ。全員じゃないけど、かなりの確率でそういう人がいるんだ。

おい・・・、まだ描いてないのに何を見ろっての?
で、「ちゃんと描いてから持ってきて」っていうと、まず見てもらってモノになりそうだったら描く、ときた。

・・・・・・・・・・・・。

そ〜じゃね〜だろ?
モノになるかどうかなんか考えないで、ひたすら描いて、とにかく持ち込んで、ボロクソに言われたらナニクソってまた描いて、そうやってデビューを目指すモンだろ?

そういうことを言うと
褒めてくれるかどうか分からないのに持ち込むのはコワイ」と言い出す。

褒められる、人気が出るなんてのは結果論なんだよ!
褒められるために描くんじゃなくて「描きたいから描く!」なんだ。例え一般受けしなくても、描きたいモノがあるならソレを描くべきだし、とにかく自分で描きたいものを描いて、それが読者が求めていたものと合致すればヒット、っていうことなんだ。ウケたいのは誰だって同じだけど、ウケなきゃ描けないなんてヤツは、最初からやるな、と言うしかない。

あきれちゃうのは、これだけじゃない。
とにかく考えがアマイ。
下描きを持ってきた子は「ハンター・ハンター」のファンだと言う。ああ、絵もパクリっぽいよな。で、「ハンター・ハンター」は時々、下描き程度の状態で掲載されるときもある。オトしたり休載したりすることも多い。だから、自分も下描きでいいんじゃないの?キツイときは休んじゃっていいんじゃないの?と言う。

・・・・。
メンドーなときは手を抜けばいい。ツライことからは逃げればいい。
それを当然だと思っている。漫画家うんぬん以前のレベルで、親は何をやってたんだと聞きたくなる。

ちなみに、この子、28歳だよ?
「子」と呼ぶ年齢じゃないけど、中身は「子」だよなぁ。
受験でも、部活でも、とにかく今までになにかに挑んだ事がないらしい。いつも親がダンドリしてくれていたらしい。そのまま28年、生きてしまったらしい。
お父さん、お母さん、あなたのお子さんは、年齢は28歳でも中身は小学生以下ですよ?
もう一度、小学校からやり直させて、勉強じゃなく、子供が体験すべき事、考えるべきことを経験させてあげてから、社会に出してくださいね。

漫画家になりたいと言う人の中に、かなりの確率でニート気味の人が混じっているのは分かっていた。
ボクがデビューを目指していた当時も、漫画家を目指す仲間は大勢いたけれど、ちゃんと持ち込みをしているヤツは、ほとんどいなかった。

クチでは言うんだよ、そのうちやるって。
でも、なかなかやらない。
親の仕送りに頼って、ときどきエゲツない同人誌売って安易なお金を掴んで、昼間は寝ていて、夜はマージャンしてるの。バイトしたり会社に勤めたりしている人もいたけど、持ち込みしないのは同じ。
そうやっているうちに、時は過ぎていく。
20歳のときは、まだまだ時間はあると思っていても、あっという間に25歳になり、30歳になる。ボクがデビューし、会社員になり、退職し、再デビューし、連載を持ち、雑誌が休刊し、再び会社員になって、新人から主任に昇格し、結婚し、独立するまでの時間、彼等はずっと同じ場所でマージャンしていた。
中には、40歳過ぎてたヤツもいたんだぜ?
40過ぎまで、ただボンヤリとマンガ読んで落書きしてるだけ。あ、宗教にハマっちゃってて、アパートにすっごく高そうな仏壇があったな。で、漫画家を目指すと口では言い続けている。親が自分たちの生活費を切り詰めて送ってくる仕送りを当然と受け取って。
最近はニートやネットカフェ難民が問題視されているけれど、20年前だって似たようなモンだったわけで、思い返すと今より酷かったのかもしれない。

どいつもこいつも、ボクより、ずっと絵は上手かった。
あの「うるの」でさえデビューできたんだから、とでも思っていたかもしれない。
当時はボク自身も、そう思っていた。オレの画力でプロになれたんだから、あいつらも、きっとプロになるよな、一緒にまんが道を歩いていけるよな、と。

でも、今ははっきり違うと言える。
動かないヤツにチャンスなんかあるわけがない
本気を出せないヤツはプロじゃない

できるかできないか、じゃなく、やる。やってのける。
やれば、オレのほうが上手いぜって言っても、やってない以上、それはゼロでしかない。例え実力ではワンランク下でも、やったヤツには遠く及ばない。プロは上手いからプロというだけでなく、素人なら妥協しちゃう部分を妥協しないからプロなんだ。
結果を出すまであきらめない姿勢と覚悟、それがプロなのだ。

ボクのところに持ち込みに来る子たち。
彼等がなぜ出版社ではなくボクのところに来るのかを考えると、本当に将来が怖くなる。
彼等は、評価されないことを異常なまでに恐れている。
自分には才能はあるはずで、やればできる子なんだから、と。
でも、それを信じ切ることもできない。心のどこかで、自分には才能なんかなくて、そんな自分が出版社に行ったりしたら、ボロクソに言われて、ずっと逃げ回っていた現実ってヤツと向き合わされちゃうかもしれない、と思っている。
だから「キミは大丈夫だよ」と誰かに言ってほしいのだろう。それは態度でハッキリ分かる。
ボクが大丈夫とタイコバンを押してくれれば、例え出版社が認めなくても、ソレは出版社の目が曇ってたということにできる。
だから言ってほしい、キミは正しいと。キミは上手いと。才能があると。

絶対、言わね〜よ!

ママに手を引いてもらえないよ〜なヤツは、普通の会社員だって勤まるわけがない。
まして、漫画家だぞ?個人事業主だぞ?
己の力だけで戦っていくしかない世界だぞ。仲のいい先輩も、慕ってくれる後輩も、本当は全部ライバル。友達はいても味方はいないんだ。一人で世間全部と戦わなきゃならないんだぜ?
オマエらみたいなヌルい連中は、一瞬で蹴散らされるだけだって。
アホな妄想してないで、まずはあまりお金にならなくてもいいからバイトして社会復帰の訓練でもしろよ。そのまんまじゃ、どんな仕事も出来ないぞ。
キミたちが漫画家になるなんて、魔法が現実化して、ロボットが跋扈する世界になって、妖怪をペットにできるようになってもアリエナイことだから。

それが悔しかったら、本気出してみろよ?
叩かれても貶されても、続けてみせろよ?
「殴られもしないで一人前になったやつがあるか!」
って、あの艦長さん(当時は代理)も言ってただろ?


漫画家志望だけじゃなく、ライター志望だったI君、キミももそうだぜ?
ライターっぽい仕事はやってきたみたいだけど、35歳にもなって、まだ「何の中身もないスカスカの紹介文」なんか書いてる。ド素人のブログのほうが、まだマシだぞ。そんな駄文に何日もかけて、締め切りを延ばしたりもするしさ。

本気で続けたいなら、勉強をサボってきたこれまでの分だけ必死にがんばって、まず世間の標準に追い付けよ。今のオマエはせいぜい20歳程度でしかないから、35歳レベルになるには15年分の修行が必要で、それを1〜2年でやらなきゃならないんだから、すごくキツイのは当然。でも、今までサボってたんだから、それをやるしかないんだよ。
で、教えてやるから頑張ってみろ、と言ったら逃げちゃった。
毎日来てたのに、2度と顔を出さなくなった。

いいか、それならそれで、本当に2度と、この世界に来るなよ?
ヘナチョコでもブサイクでも不器用でも未熟でもいいけど、ココ一番では逃げないだけの根性はある。そういうヤツじゃなきゃ、この世界は勤まらないんだ。
この世界にいる限り、キツいスケジュールで自分にはやれそうもない何かをやらなきゃならない、ということが必ずある。できそうにないことを、それでもやる。そういうヤツだけが続けていける世界なんだよな。

アンタが地獄の底だと思ってたトコロは、まだまだ浅い。でも、一度ソコに触れてしまえば、次からはもっと深いトコまで潜れるようになる。それを繰り返し経験して、深さを作っていくんだ。先はどこまでも深くて、ボクも、もっと深いトコまでいった人から見れば浅い。限り無い深さに挑み続けるだけで、極めることは一生ない。そういう世界なんだぜ?