●[自分の力でやった人たち]
02.お父さんに大受け、幼稚園ニュース
あおば台幼稚園のホームページ作成を引き受けたのは、2000年夏のことである。
秋からは来年度の園児募集が始まる。それを見越してのことだった。
広報専門の部署や担当者を持たない中小企業の場合、WEBにせよ印刷物にせよ、十分な資料や掲載情報が最初から用意されていることは少ない。広報戦略がきちんと確立されていないため、具体的なビジョンを持てないからである。そのため、かなりの部分を制作サイドで補完していかなければならない。この時も簡単なワープロ原稿2、3枚に、園児募集要項程度の資料を預かっただけであった。
この補完作業は、企業のアイデンティティを確立することと同義であり、その企業の本質にまで踏み込まなければならない。この工程をおろそかにすると、見た目だけよくて役に立たないホームページになってしまうのだ。
ホームページは必ず閲覧者のために作られる。これは(特に企業の広報なら)当たり前のことのはずだが、多くの場合、企業担当者はそのことを十分理解できていない。ひたすら商品や価格、サービス内容を連呼し続けるのみだが、それで閲覧者に魅力を伝えきれるものなのか?。
ホームページは無人である。パソコンの画面上に表示されるだけで、商品を手に取って触ることも出来ない。そこには商売の基本である「信頼」が著しく欠如している。

言い換えれば、商用の企業ホームページで最も重要なものは、信頼の確保・維持・増幅なのだ。

大切な我が子を預ける家族は、幼稚園のホームページに何を望むのか。
当時は筆者の娘も幼稚園児であったため、自分自身の想いをホームページにぶつけてみた。
幼稚園や保育所では、子どもたちに、豊かな心を、楽しく、安全に育ててくれる。
だが、それは具体的にはどういうことをしているのか?。
父兄参観は定期的にあるが、それも親が見ている時の子どもたちでしかない。
親がいないとき、子どもたちはどうしているのだろう?。
筆者は、この疑問に答えられるホームページにしよう、と考えた。
園での出来事をホームページで家族に伝えるのである。年間行事の一覧ではない。毎日、子どもたちがどうしているかを、できる限り、それもライブで伝えたい、伝えて欲しい。

こうしたコンセプトに基づいて、同年9月にあおば台幼稚園ホームページはオープンした。園の出来事は<あおば台だより>というニュースページで掲載している。また、家族向けの電子掲示板も用意し、相談や質問にも答えるようにした。
2002年現在、ときどき更新ペースが落ちることはあるようだが、園の出来事はインターネットでいつでも見れる。

家庭からの評判もよく、特に父親からの反響は大きなものがあった。
毎日の送り迎えで園と触れ合う機会のある母親と異なり、子供との接点が少ない父親でも、インターネットで子供のニュースを把握できる。その日にやったお遊戯、覚えた歌などを、子供に聞かなくても分かっていてあげられる。
こうした情報の公開は、そのまま園への信頼につながる。その信頼は、オンラインだけでなく、クチコミネットワークで新たな保護者にも伝わっていく。たかがクチコミとはいえ、限定された地域を相手にする事業の場合、その効果は絶大である。施設の案内を長々と説明するより、遥かに有意義な魅力アピールになっているのだ。
※むろん、募集要項や施設案内などの情報もきちんと併記している。

実は、この程度のことはWEB作成業者なら誰でも考える。だが、多くの場合実行できない、あるいは実行しても失敗する。その原因は費用であったり、実行に伴う負担であったりする。
例えば、園にカメラを設置して、インターネット放送するのであれば、カメラや通信機器などの機材を購入しなければならず、その操作も覚えなければならない。そもそもカメラのない場所にいる子供は撮影できない。専従カメラマンがいるわけではないのだ。電源や通信用のケーブルの問題もある。

本件の場合、この問題はデジカメでスナップ撮影、という方式を採用した。担任が撮影した画像をパソコンでホームページへ転送する。このときにコメントもつける。

言葉で言えば簡単なことだ。
だが、この写真を転送してコメントをつける、という作業が厄介なのである。
幼稚園に限らず、中小企業の場合、経営者本人が広報担当も兼ねていることも多く、せいぜいがやっとワープロ程度は覚えた、という程度のスキルしかない。電子メールはおろか、ホームページを見るのさえ苦痛だという人たちなのである。
こうした担当者にホームページの管理・更新を委ねるのは、あまりにも無謀だ。それくらいはできる、という担当者の場合もあるが、やはり毎日とか毎月とか、ノルマが課せられてくると、飽きる、面倒、といった理由ですぐに停滞していく。やる気を維持できるのは、最初の1〜2ヶ月程度なのだ。
かといって、制作業者に委託するとしても毎日のことである。その都度経費がかかり、費用負担が大きすぎる。これもすぐに苦しくなる。
あおば台幼稚園の場合も、園長自身が担当者であった。やはりワープロだけは打てる、というレベルで、作成当時はインターネット接続さえできていない。
では、どうすればいいのか。

そこでニュース専用の掲示板システムを用意した。当時、私が勤めていた制作会社のオリジナルのもので、システム設計は私が行ったもので、機能自体は大したことはないが、使いやすさでは定評がある。
あおば台幼稚園園長(60歳)の場合でも、約30分で操作方法を覚えられた。デジカメの使い方と合わせても、1時間程度である。

※同種のCGIはインターネット上に山のようにあり、いずれも安価で入手できる。多くの場合、記事書き込みのほとんどが自動化されているため、ワープロ程度の知識で十分対処できる。

実際の更新作業は、各担任を含む全員で行っている。園は2ケ所にあるが、インターネット上にすべての操作情報があるので、どこのパソコンからでも同じように対処できる。こうした分業体制も、WEBサイトを停滞させないための工夫だ。1人に負担が集中するようだと、担当者の状況によって更新業務が滞りかねない。

筆者は様々な工夫を凝らして、このホームページを作った。だが、実際に効果を挙げたのは、園のスタッフが定期的な更新作業を行ったからだ。成功は本人の力で勝ち取ったものなのだ。
自分たちでできる道具を用意し、実際にそれを使う。
簡単なことだが、現実に行う事と、やれると思っているだけでは大きな違いがある。
やった者だけが成功するのがインターネットなのだ。

あおば台幼稚園以降、多数の幼稚園サイトを手がけることになった。いずれも、同様のニュース更新方法を採用し、父兄との信頼づくりに成功している。
(ニュース掲示板を使って、夏休みお泊まり会の模様を「実況中継」した幼稚園もあった)