●[自分の力でやった人たち]
04.掲示板でお客と友だちになった子供服屋さん
インターネットの魅力は双方向性、とは昔からよく言われる。
その双方向性を代表するのがチャットと電子掲示板だ。
今やタダで使える電子掲示板サービスも山のようにあり、どこにでも掲示板はある。
だが、企業サイトの掲示板の場合、ほとんど、何も書かれないまま、歳月だけが過ぎていくことも多い。
本来、掲示板は互いに意見を交えるためのものであるのに、
管理者不在の、単なるサービスに堕ちてしまっているからだ。
人気のない場所には、誰も集まるまい。

子供服のケレッタは、1999年夏に、あるホームページ作成サービスを開始してすぐに手がけたホームページだ。埼玉県の子供服店で、人気ブランドの子供服を中心に扱っている。
このWEBサイトは、いわゆるショッピングサイトであり、子供服の通信販売が中心だ。内容的にも、ごくありふれたコンテンツ(メニュー)であり、インターネットに山ほどある、他のショッピングサイトと比べても、大した変わりはない。

通販サイトの場合、大手通販サイトと提携するなどして販路を確保しないと、単独のホームページだけでは十分な売上を上げることは難しい。
しかも、有名な「楽天」などに出店したとしても、それはそれで別の問題が待ち受けている。月々の出店費もかかる。しかも、回収できる保証もない。
たとえ「楽天」でも、実際は売れていない店の方が多いのだから。

そんな中、ケレッタは、どこの通販サイトの力にも頼らずに、必ず商品を完売していた。一時は店頭での販売を停止しようか、と検討するほど、オンラインの売上は大きかった。
その成功の影には、電子掲示板の効用とオンライン営業の努力があった。

ケレッタの掲示板はオープン以来、ずっと設置されている。自社用にカスタム制作したものではなく、商用の掲示板サービスからレンタルを受けているだけだ。
だが、見てほしい。
そこには数多くのお客様からの意見が書かれている。それも、商品やお店に関することばかりでなく、気軽な井戸端会議場になっている。そして、その膨大な会話のほとんどに店主自身が参加しているのだ。

ケレッタ店長は、掲示板を単なる「付録」に終わらせなかった。お客様と話しあい、親しくなり、情報を得るための営業窓口として、正しく管理したのである。
掲示板を設置する以上、当たり前のことなのだが、それを徹底する企業担当者は極めて少ない。いつ意見が書かれるか分からない電子掲示板を、頻繁にチェックし、様々な会話に自分の意見を差し込むのは、かなりの労力だからだ。しかし、ケレッタでは、それをやった。自分で、である。
また、書き込んでくれるお客様たちの確保にも努力がある。
最初、サイトが完成したとき、ケレッタでは<ケレッタ、オンラインショップ、埼玉県>といったキーワードで検索登録しようとしていた。だが、私はそれを<子供服、育児、服飾、ケレッタ>といったキーワードに変更するように勧めた。
先のキーワードでは、「埼玉県にあるケレッタというオンラインショップ」、という情報しか伝わらず、大事な商品情報がまったく盛り込まれていないからである。
また、登録先カテゴリも子供や育児関係のカテゴリに徹した。
子供が幼児期(特に乳児)の場合、外出するのは大変で、主婦は屋内にこもりがちになる。外部との接点が薄れるため、インターネットなどのバーチャルな空間にそれを求める例も多いのだ。そうした客層を集めるには、そうした人たちが集まる場所に、ケレッタの名前が表示されなければならない。
また、一度買ってくれたお客様へのメールでのお伺いも、必ず行った。

こうした努力が評価され、育児サイトに集まるお母さんたちの間で、ケレッタの名が囁かれるようになったのだ。それ以降は、爆発的な威力を持つネットクチコミに押されて、ケレッタは常時完売の優良サイトになった。
ケレッタホームページの開設費用は、約10万円。私たちは制作と検索登録、そして掲示板の運用について、若干の説明をした程度だ。
本人の努力だけで、今だインターネットでは伝説を作るチャンスがあることを、私たちに教えてくれた仕事でもあった。