●[自分の力でやった人たち]
07.新型マシンの実力をサイトで知らしめた重機会社
客は誰なのか。その客を、どうするのか。
そういうことを深く考えているだろうか。
アクセスカウンタがいくつ増えた、そういう事に喜びを見いだしているサイトも、まだ多い。
だが、冷やかし客がどれほど多くても、実際に売上につながらなければ、何の意味もない。

西山運輸機工株式会社は、クレーン車などの重機を提供する会社である。
同社は2001年春、東日本には1台しかないという超大型クレーンを導入した。
550トンを一気に吊り上げる力を持つこのクレーンは、従来考えられなかった建築方法を生みだす可能性がある。これを機に、同社はホームページ開設に踏み切った。
超大型クレーンを中心とする同社のクレーン情報を公開し、その稼働を確保することが目的である。

西山運輸機工のホームページを閲覧するのは誰なのか。
インターネットが開かれたネットワークである以上、誰でも同社サイトを見る可能性はある。
巨大クレーンを物珍しさで見る場合もあるだろう。
だが、アピールすべき相手は、あくまでも建設業界の担当者たちである。
そこにターゲットを絞り込んだ。
また、業界の実情として、また取引金額の大きさからも、オンラインだけで契約が完了するようなものではない。オンラインからの直接アクションは、問合せのみとした。

一般に、企業間取引サイトをBtoBサイトと呼ぶが、実際に見てみると、BtoBのアクションを誘発するには、あまりにも足りない、あるいはズレているものが多い。
BtoBである以上、お互いプロなのだ。相手が提供するものが何なのか、見極める目を持っている。
会社案内程度の情報には、ほとんど価値がない。具体的な仕様情報が必要だった。
寸法、重量、稼働条件、能力。
派手さはなくとも、まさに、そこに取引への道がある。
重機製造メーカにも匹敵するほどの、仕様書を作成し、オンラインで公開した。重機そのもののビジュアルもふんだんに盛り込む。写真画像の持つインパクトは、決してあなどれない。
北海道の原野で、巨大な風車を一気に吊り上げる迫力。
こんな事ができるのか、と思わせることが、詳しい仕様書の情報閲覧へとつながっていき、取引のきっかけを作るのだ。ニュース欄や一般情報のページでも、重機の活躍をレポートできるようにした。
さらに、ホームページのオープニングとして、フラッシュムービーを作成した。

多くのサイトで見られる方式だが、実は、本来オープニングムービーという考え自体、正しいとは言えない。相手の希望に関わらずムービーを強制的に見せるのは、お客様本位のインターネットの鉄則に反しているのだから。
フラッシュの、それもバージョンが合ったプラグインソフトがなければ、閲覧自体できないし、また通信速度が遅いと不具合が起こる可能性も高い。
ホームページに動画を組み込みたい、という要望は多いが、それが本当にサイトの魅力アップになるのか、もう一度考えるべきだ。特に、不特定の一般閲覧者を相手にするサイトなら、企業側の自己満足に過ぎない場合がほとんどである。

だが、ここではインパクトを優先した。相手は<不特定>ではないのだ。企業の場合、少なくともISDN以上の通信回線を確保している。特に、大型重機を使用するような大手ゼネコンの場合、ブロードバンド以上の高速通信回線を確保済みの場合が多い。
もっとも、あまり長いムービーは飽きられる。
約20秒。動き、音、映像で、巨大クレーンの頼もしさをアピールするものを作った。

西山運輸機工では、すぐに取引が始まるとは考えておらず、せいぜい、2001年中に新型クレーンの稼働実績くらいは上げたい、という範囲で想定していた。
しかし、2001年4月、ホームページが公開され、さらに6月、各種仕様書の設置も完了した頃から、問合せは急増し、期待以上の稼働予約が契約できた。
実際の予約申込みは電話等での問合せが多かったようだが、そのほとんどはホームページを見て、電話してきたものだ。
ターゲットを絞り込み、その相手に合わせた構成を考える。それも、できるだけ深く。