●[自分の力でやった人たち]
08.日本一を目指す建設会社
毎日のように新聞に折り込まれてくる広告の束。その一つ一つにどれほどのコストがかかっているのか、ご存知だろうか。両面カラー印刷、A2、B2サイズの大きなチラシで、20万枚の配布なら、制作費、印刷費、折り込み料などのトータルは200〜300万円にも達する。毎月のようにチラシを作るなら、年間数千万円もの経費がかかるのだ。
2000年当時、すでに住宅業界は大きく冷え込み、新築の受注は激減していた。
経費に見合った売上につながる確率は決して高くない。

茨城県牛久市の建設会社<日研>が、こうしたコスト削減をインターネットに求めたのもうなずける話であった。
チラシ数回分が、そのままホームページの開発費として見込まれた。一度作り上げてしまえば、あとの経費はそれほどはかからない。
この資金は、私たちにとっても魅力的だったが、私たちは受注額面で企画しているわけではない。私たちはいつも、その会社にとって(あるいはその会社のお客様にとって)、最もベストな状態を考え、それを受注額に見合ったレベルで組み立てる。資金が少ないときには、要求される最低ラインを整え、その上で第2期、第3期と、資金が許せる範囲で、少しづつ拡張していけばよいのだ。そういう対応ができるのもインターネットならではのことで、例え10万円程度の資金でも、整ったホームページは作れる。
まず、戦略。
目先の資金や技術だけを見ていては、ゴールには届かない。

日研のすべてをホームページ化する。それが目標だった。
住宅のカタログ、設備・部材、工法・技術、さらに住宅全般に関わる情報。
そのすべてを、可能なかぎり詳細に、オンラインで閲覧できるようにする。
また、掲載内容へのナビゲーションは、あくまでも客本位でなければならない。
いいものですよ、と押し付けるのではなく、閲覧者自身に納得してもらう。
客が豊富な知識を持っていることが、かえって不利になることもある。
聞かれたくないこともあるだろう。
だが、それも甘んじて受ける。隠さない、ごまかさない。
日研は踏み込んだ。むろん躊躇はあったろう。
わかってはいても、こうしたスタンスで営業するのは、とても勇気がいることだ。
だが、直接対面するわけではないインターネットでは、そうしたごまかしに客は敏感なのだ。
信頼を築くこと。
インターネットでは現実以上に配慮しなければならないのだ。

現在、日研ホームページは、約300画面程度のボリュームで、さらに追加作業が続いている。
閲覧者を喜ばす、サービス精神にも溢れている。
2001年夏からは、オンラインコミックの連載も開始した。マンガとして十分楽しめるものになるよう、企業コミックとしては珍しいギャグタッチで紹介している。主要登場人物に日研社長を設定している他は、あまり企業色を強めない構成にした。
サービスや住宅商品をセールスするだけでなく、住宅ができるまでを住宅取得に関わる様々な出来事を盛り込んで描いていく。

最終目標は、住宅に関する、あらゆる情報が入手できるサイトである。
業界も停滞しているわけではないから、これは決して達成できない目標であり、実際、情報量も明らかに不足しているが、それでも続けていく。
Aについての情報を得ると、さらに詳しいBの情報へ。さらに、関連するCの情報へ。
例えば、外壁材。使われている技術は?、材料は?、その効果は?。
それは、気の遠くなるほどのボリュームだった。
むろん、一気にすべてを作り上げる事は出来ない。
また、作り終えた情報も、内容が変更されることがある。

少しづつ、作り足していく。
本来、ホームページには完成がない。バーチャルな世界に創った企業そのものだからである。
それも建物のことではなく、建物も含めた経営のすべてと考えていい。企業が存続する限り、営業が続くように、ホームページも、いつまででも更新・リニューアル・追加が続く。
泳ぐのを止めた魚は死んでしまうのだ。

日々の更新は日研自身で対応している。専任、ではないが、ある程度の知識を持った管理担当者も置いた。社長自身もかなりの勉強をして、毎月、数十件にも及ぶニュースを自身で書き続けている。
オンラインを通じた問合せも増え始め、営業担当者はホームページをプリントしたものを、営業資料として持ち歩いているため、コストも削減されつつある。
日研ホームページは、私が担当したサイトの中でも、最大級のボリュームである。
そして、さらに成長していくのだ。

余談になるが、2002年7月現在、私は日研の軒先に事務所を間借りしており、同社のホームページの管理担当も兼ねている。

※2003年補足
2003年3月に事務所を現在の場所に移転した。日研ホームページは03.4月に全面リニューアルを行い、インターネット時代の暮らしを想定した「ブロードバンド対応住宅」を全面に押し出す構成に変更した。ちなみに、このブロードバンド住宅には、私自身のアイディアも多数組み込まれている(将来的に内部配線を自由に差し替えられる構造、ルータ・ハブに電気や電話も含めた情報配電盤の仕様など)