●[自分の力でやった人たち]
11.露天風呂の魅力をアピールするビジュアル戦略
アクセスカウンタが10000を超えた、と筑波山ホテル青木屋から連絡があったのは、ホームページ開設から半年目のことだった。むろん、言われなくとも、担当したサイトの状況は毎日チェックしているが、こうした喜びの声は嬉しいものだ。
実際、青木屋ホームページの伸び率は、非常に高いものだった。

筑波山は関東有数の名山として知られており、都心からも近いため、多くの観光客が訪れる。
が、インターネットで検索してみると、驚くほどに筑波山に関する情報は少ない。
こうした背景も考慮して、私たちは青木屋ホームページをプランした。
内容的には、平均的なホテル情報のホームページだが、奇をてらったコンテンツは破綻しやすい。
意表を突く企画より、ユーザの期待通りの情報が得られるページ構成を目指した。

期待感を盛り上げるビジュアル作り。
青木屋の最大のセールスポイントは、屋上露天風呂である。
筑波山から見下ろす研究学園都市の夜景。晴れた日には、夕焼けに映える富士山も遠く望める。
そのイメージを最大限表現できるように、WEBサイトをデザインした。
べースカラーは、青木屋のロゴタイプにも使われている濃紺で、露天風呂とつくばの絶景を協調するように対比させた。

ホームページに限らず、広報や宣伝用の制作物の打ちあわせで、クライアントは実にたくさんのセールスポイントを訴えてくる。ここがスゴイ、ここが斬新、と、失礼ながら重箱の隅をつつくように、である。
中には独りよがりな場合もあるが、自社商品やサービスを少しでも知ってもらうために必死なのだ。
こうして、私たちは膨大な資料と、長い打ちあわせに付きあう。
そして、こう聞く。
「では、今の特長の中で、一番のセールスポイントはどこですか?」
そりゃもちろん、と答えが返ってくる確率は4割くらいか。
多くの場合は「あれもこれも大事だから、全部目立つように」となる。

実は、それがマズイ。
白地に赤1つが我が国の国旗だが、あの赤い丸が星条旗の星のようにいっぱいあったらどうか。
目立たないのだ。遠目にはピンク一色に見えるだろう。
広告的にも、何か1つを最大限アピールしたほうがいいのだ。
その他のセールスポイントは脇に回ってもらうほうが、遥かに人の心に残る。

青木屋の場合も、料理、部屋、周辺観光など、いいところは一杯あった。
だが、トップ画面では露天風呂とロケーションだけにこだわることにした。
画面からドラマを感じさせる。それを狙った。
よく使われる建物写真も排除して、とにかく、露天風呂から景観を楽しむ気分を感じてもらう。
それ以外のことはあとでじっくり見てもらえばよい。

このことは、サイト自体の個性を演出する上でも重要だ。
例えば、最近の建設会社の多くは「自由設計」で「フル装備」で「在来工法」だ。
観光ホテルのほとんどは料理が美味く、ゆったりできて周辺に見どころがある。
これでは、どのホームページでも同じになってしまう。
ましてや、同じ地域だったりすると、どこでもいい、ということになってしまう。
そのサービスを選ぶ決め手がないと、客をつかまえられないのだ。

他所でもやっていることは最低限のアタリマエにして、自分だけの特長を全面に出す。
観光地→東京近郊→筑波山→温泉→露天→、と絞り込んでいったとき、最後に自分だけが残るような特長が出せれば最高だ。

後日、筑波山をテレビ局が取材したとき、多くのホテルの中から選ばれた舞台は青木屋だった。
ホームページを見たテレビ局担当者が選んだのである。
これもよって、青木屋のアクセスはさらに伸びた。
「あなたが私を選ぶ理由。」
この動機づけこそ、宣伝で重要なことなのだ。