●[やりたくないユーザーたち]
05.ドメイン戦争とASP
私たちがWEBサイト立ち上げの打ちあわせをする際に、ドメイン取得の話が出ることが多い。自社専用のドメインでやりたい、というわけで、この要望は基本的には正しい。
ドメインは世界中に1つしかない。つまり自分の土地を手に入れたようなもので、自社ドメインをちゃんと確保して初めて、インターネットの住人になった、と言えるからだ。プロバイダ供給のメールアドレスを使っているうちは、ゲストでしかない。

自社ドメインは、サーバ維持費を含めても年間数千円程度から運用できる(この費用はサーバ会社のサービス品質やサーバの性能、ドメインの種類によって異なる)。
そこにホームページを設置すれば(ホームページがあってもなくてもこの費用は変わらない)、独自ドメインサイトができあがる。むろん、接続のためのプロバイダ費用は別途発生するが、定額低料金のブロードバンド時代である。さほどの負担ではない。

確保したドメインの認知度が上がれば、サイトへのアクセスも高まる。認知度の高いドメイン名は、そのままネット上のブランドにもなる。そこで、分かりやすくて使いやすいドメインを用意しよう、という動きが起こった。これも基本的に正しく、長くて意味の分からない名前より、商品や企業のイメージをパッと連想できる名前の方がいいことは確かだ。
これが、いわゆるドットコム競争である。

欧米ではドメインの確保は死活問題といってもいいが、日本のソレは、欧米とは少し違う。
ドメインは基本的に英語であり、日本人の大半は未だに英語が読めない(日本の英語教育がいかに役に立っていないか、という事でもある)。
日本語のローマ字化や日本人でも読める単純なキーワードにすることで、少しは分かりやすいが、結局は英文である。ドメインがわかりにくいものには違いないのだ。

※もっとも大手の場合、NTTなら「ntt.co.jp」、SONYなら「sony.co.jp」など、間違いようのないドメインを確保している。

※こうした要望が高まり、今では日本語ドメインも登場している。だが、最初の「http...」や、最後の「.jp」等は、やはり付くわけで、ここは半角英語で入力しなければならないため、全角和文、半角英文を使い分けないと打てない。いっそローマ字入力の英文のほうがずっと楽である。

最初に書いたように、自社ドメインはあったほうがよい。
だが、それはインターネットを正しく運用するために、あるいは将来を見据えて確保したほうがよい、ということである。例えば、電子メールアドレスが「個人名@自社名」なら覚えてもらいやすいし、欲しいアドレスが自由に確保できる、といったことだ。

だが、「実際に成功しているサイト」イコール「独自ドメイン」ではない。
「yahoo」などの検索サイトを覗いてみればすぐにわかることだが、見る側はドメイン名で検索するのではなく、ジャンルやサービス、地域などでサイトを探す。
気に入ったサイトを見つけた場合も、そのサイト名は覚えていてもURLは覚えていないことが多い(少なくとも筆者はそうだ)。
数百万、数千万円、あるいは何億という費用を投じて作る大手サイトならば、規模から言っても独自ドメインサーバでなければ、そもそも対応できないだろうが、中小の場合はせいぜい20〜30画面程度、技術的な理由で言えば、独自サーバでなければならない理由はほとんどない。

もっとも、せっかく自社ドメインを確保したからには、WEBサイトもそこに置くのが普通だ。
だが、何でもかんでも自社ドメインにこだわると、墓穴を掘ることになる。
インターネットを上手に活用している中小企業サイトの多くは、システムレンタルを利用する。
ショッピング機能、アンケート機能、ニュース機能などだ。提供するサービスが、よほど特殊なもので何もしなくても皆が欲しがる、というのならば別だが、そうでないかぎり、あなたの店だけはレジがなく、クレジットも使えず、という状態では、効果は期待できない。
こうしたシステムを自社専用にオーダーメイドすると、大変な出費になる。数百万クラスの費用がかかる場合も多いし、システム内容が古くなれば、また作り直さなければならない。
そのためにシステムレンタルがある。

ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)などのシステムサービスは、現実の世界で言えば転送電話と代行業者をセットにしたようなものだ。
客から電話がかかる。電話はあなたの会社にかかってくるが、転送電話なので、実は全く別の場所の、代行業者に回される。
代行業者は、あなたに代わって注文を聞き、その内容をあなたに知らせてくれる。
これをインターネット画面でやるのがシステムレンタルである。
自分のWEBサイトには、注文のボタンはあるが注文を受ける機能はない。
ボタンを押すと、サービス会社のサーバにあらかじめ用意した専用画面に切り替わって、注文の受付が行われ、注文結果だけが自分に返ってくる、といった動きになる。
年額、あるいは月額の使用料を払うことで利用でき、一部を除けば、月当たり数千円程度から使える(サービス内容によって異なる)場合が多い。

こうしたシステムレンタルは、自社の中にある機能ではないので、自社ドメインでの運用はできない。サイトの構造や提供されるシステムによっては、外部であることを利用者に気づかせない(表に出ない、というだけでインターネット熟練者にはわかってしまうが)こともできるが、原則的には、他所の機能なのだ。

なんだ、それなら自分のところに、その機能を置いておけばよいではないか、と思う方がいるだろう。受付係を雇うのと違って、機能そのものを買ってしまえば、それ以上コストはかからない、定期的にレンタル代など払わなくて済む、と。
毎月の固定費を抑えたい企業にとって当然の発想なのだが、そう簡単ではないのだ。
人間ではなく相手はプログラム。
専門家でない者に管理できるのか。
会社で、コピー機やファクシミリなどのハードウェアを購入した場合でも、毎月のメンテナンス費を取られている場合が多い。これを払っていない場合は故障したときの修理費が高くなる上に、すぐに修理できるとは限らない。また、モノが古くなったときの買い直しにも大きな費用がかかることになる。インターネットの技術は日進月歩であり、閲覧者の要求もどんどん高いものになる。これに追いついていくには相当の出費を覚悟しなければならない。
これがレンタルなら、メンテナンスもバージョンアップ(新型・新機能への切り替え)も全部込みなのだ。自分たちは使うだけで済む。

いまでは、大手企業も外部ASPを導入するケースが増えてきた。
外部の優れた機能やノウハウを上手く利用し、システム管理にかかっていた負担を減らしていこう、モチはモチ屋、ということである。
企業や商品の価値はURLにあるのではない。
すべてを自社ドメインにこだわるのは、あなたの自己満足である可能性が高い。