●[WEBクリエイターの2900日]
09.狼を雇う
個人開業、SOHOといったスタイルには「一匹狼」のイメージがあるが、クリエイターの場合、個人であろうが勤め人であろうが、狼だと思っている。

私はかなり偏った人間で、実際の現場以外の部分では、かなり欠落した部分がある。個人、あるいは組織を率いる立場なら、まず「経営」ということを考えなければならないが、これが大嫌いなのだ。例えば、仕事の請求書を送るのも面倒がるし、振込みを確認するのも嫌い。確定申告などは死ぬほど億劫。
大体、金勘定しながらクリエイティブなどできるものではない、と思っている(予算管理などは「仕事の条件」に過ぎないから金勘定ではない)。

そもそも、私は制作のプロであって経理や事務のプロではない。
私は「イイモノ」を作りたいだけだから、クリエイティブに専念できる環境が欲しかった。振り返ってみると、そういう気持ちがあるから、過去、いくつかの会社に所属していた、というのが本音だろう。だが、実際に企業に属してみると、思っていたほどクリエイティブに専念できなくなる。なぜか。

組織というヤツは、個人の才能や発想を阻害する。
クリエイターは、たとえ組織に所属していても、やはり「狼」なのだ。社会に噛みつき、ルールに噛みつき、自分に噛みつき、組織にも噛みつく。その牙(誇り、あるいはこだわりと言い換えてもいい)がクリエイターをクリエイターたらしめているのだから。
しかし、雇う側は、雇ったからには「犬」だと思い込むことが多い。飼い犬なんだから主人に従え、というわけである。ルールに従い、上司に従い、クライアントに従うことを求められる。
残念でした、私は「狼」なのだ。
もちろん、狼にだって忠誠心はある。所属する組織に貢献するのは当然で、それを喜びにも感じる。だが、決して魂まで従属することはない。組織の成功と個人の成功は別のものだ。極端な話、会社が潰れても能力があれば、チャンスは何度でもやってくるが、会社の業績が上がっても、能力が低ければ仕事を失ってしまう。窓際族など許されない時代。牙を抜かれたクリエイターでは、生きていけない。
クリエイターは異端であり、だからこそ才能もある。
クリエイターを雇う経営者の皆さんには、「狼を雇う」ということを、もうちょっと理解してもらいたいし、クリエイターを目指す人たちには「覚悟」が必要なのだと思う。