●[WEBクリエイターの2900日]
10.戦略と戦術
近ごろはマーケティング的な立場で、意見を求められることが多くなっており、それはそれで(ある程度の)評価を頂いているが、企画会社やシステム会社は本質的には「戦略家」ではなく「戦術家」に当たる。
残念なことに、この戦略と戦術の区別が出来ていない方が多い。

大辞林で調べてみる。
せんりゃく 【戦略】〔strategy〕
長期的・全体的展望に立った闘争の準備・計画・運用の方法。戦略の具体的遂行である戦術とは区別される。

せんじゅつ 【戦術】
(1)個々の具体的な戦闘における戦闘力の使用法。普通、長期・広範の展望をもつ戦略の下位に属する。
(2)一定の目的を達成するためにとられる手段・方法。「牛歩―」

「木を見て森を見ず」ということわざがあるが、「木」は戦術、「森」は戦略と言い換えられる。
ある状況や状態を生み出すための「計画」と、その状況に適した実際の「行動・手段」。どれほど優れた戦術であっても、大元の戦略がきちんとしていなければ、戦果は上がらない。総括的な方針とその場その場の判断はまったく別のことで、上位に当たる「戦略」での失策は、どれほどの労力・資金をかけても「戦術」では取り返せないものだ(稀には戦術での逆転もあり得る)。
こういう問題について、従来の広告展開では自社なりの考え方を持っている会社でも、WEBとなると、専門会社のいいなり、という場合が多い。WEBユーザビリティやらITソリューションやらのコトバに幻惑されて本質を見失っている、と言いたい。
私たちクリエイターは、アイディア、デザイン、システム、グラフィックなどで戦術をカタチにする。時には、戦略レベルでの失策をなんとかカバーしようとすることもある。
だが、戦術家が「戦略」を語るのは、本来、あまり望ましいことではない。
なぜって、戦略家は「木」を見るプロであって、「森」を見るプロじゃないのだから。考える訓練は日夜しているから、そこそこの意見や見識は持っているが、しょせんは現場優先の判断である。「我々は企業のストラテジーを提供します」などと言うキャッチコピーをよく見るが、それでいて「当社の○○システムは……」と来る。ソレは「戦術」の方だっつ〜の。

企画会社やシステム会社の多くは「当社の○○システム」に、クライアントを乗せることを前提に考えるのが普通だが、素晴らしいデザインやシステムを見せられて、それに引きずられる形で企画が進んでいくのは危険だ。「新しい武器が出来たから戦争してみよう」などというバカな話があってたまるか。「戦わなきゃならないから、そのための武器がいる」というのが正しい。
私も含めて、制作・企画会社の多くは「戦術家」である。戦術を語る前に、まず戦略を考えて欲しい。