●[WEBクリエイターの2900日]
12.私の発想法はドラマ
イメージづくりは仕事上、一番大事な部分だ。他のデザイナーさんやイラストレーターさんがどのようにイメージを得ているのかはわからないが、私のやり方は人とちょっと違うように思う。
私の場合、お客様の要望に合わせて作る、というよりも、「お客様の要望に沿いつつ、自分が思い描く理想像を組み立てる」という感じが近い。

元が漫画家なので、漫画と同様、シナリオづくりから始めるのだ。クライアント企業や商品が「お題」で、消費者がそれらにどんな手順で出会い、興味を持ち、購入に踏み切るのか、といったコトを、かなり具体的に想像する。仮に、店頭でなにげなく出会って購入するような商品(日用品など)の場合でも、

「……明日は日曜日。子供はいつも遅く帰るお父さんとお風呂に入れるので楽しみにしている。風呂桶を洗っておこう、と、いつもの洗剤を手に取った主婦は、ふと、隣りにある見慣れない洗剤を目に留めた。何やら新開発の成分のおかげでカビが驚くほど落ちる、と書かれている。パッケージの親子のイラストが、我が家を彷彿させた。そういえば……。ウチの息子は浴室の壁のカビ(何度洗っても落ちなかった)がオバケに見える、と言っていなかったか?。あのオバケを退治できるかもしれない。
日曜日の夜。
浴室から父子の笑い声が聞こえる。「オバケが消えちゃったよ!」「ホントだ!ママってすごいなぁ」。もうすぐ大きな声で「出るよ〜」と息子が叫ぶだろう。彼女は、少し誇らしげな気分を感じながら、息子を迎えるためのバスタオルを用意する……。」

また、主人公(ターゲット)が夫や子供なら、別のドラマが生まれるだろう。
例えば・・
家事(風呂掃除)を手伝わないことで妻と喧嘩。ふと覗いたホームセンターで「商品」と出会う。
夜、妻が風呂に入るとフロ垢が落とされていて、落とした跡がうっすらと文字になって読める。
「ふろそうじもオモシロイ」。思わず苦笑する妻。
などである。これに「掃除にハマってしまって、また喧嘩になる」といったオチを付けるとショートショート系のコミックにもなる。

ま、コレは即興なのだが、こういう具合にドラマを考えてしまうのだ。そして、その中で一番印象的に感じたシーンをデザインのモティーフにする。WEBサイトの場合、開発者の側から見たドラマや経営者のドラマ、「オバケ」が消えなかったときのドラマなど、コンテンツに応じて無数のドラマを想像することが多い。企業側からのドラマなら「プロジェクトX風」等々。時には相互のドラマがザッピングしていたりもする。
ほとんどの場合、実際にシナリオとして書き起こすわけではなく、頭の中だけで考えることなのだが、この想像は物凄く具体的。最初に手にする洗剤はどこそこのメーカーで、この奥さんは何歳で、旦那さんはどんな職業で、子供を迎えるバスタオルには「ウルトラマンコスモス」が描かれていて……という感じ。
もしも、この通りの「カビ落としに強いお風呂洗剤」の広報を担当したとしたら、「お風呂オバケをやっつけろ!」のノリで、楽しいお風呂ライフを全面に出すか、「家族の幸せを支える賢い奥様」をイメージして、若い主婦向けに仕掛けるか、など、いくつかの方向性が見えてくる。オバケ編ならそれこそ漫画のような構成、奥様編なら、少し余韻の残るような、優しい雰囲気で……。

このやり方は漫画あがりの私には、一番イメージを膨らませやすいやり方なのである。
また、消費者の立場で、その商品やサービスとの関わりを想像すると、セールスポイントや商品の性格も掴みやすい。

※こうしたイメージに登場人物の個性(キャラクター性)を加えると、それこそ漫画になる。もちろん、それだけでは「読ませるパワー」が足りないので、もっとドラマ部分を工夫することになる。もっとも、この例のような「瞬間的に購入を決するような商品」の場合、長々と何ページもの漫画で説明するようなものではないから、凝縮した1カット、1ビジュアルの訴求力が求められるので、長編には向かない。