●[WEBクリエイターの2900日]
13.嵐の日に嵐(仕事と家庭の両立)
昨年10月の出来事である。
少々、スケジュールを甘くみた。
普通にやっても間に合うだろう、と始めたが、どうも土日を返上しないと間に合わないようだ。ところが土日が過ぎても、まだメドが立たない。納品は金曜日。そこまでは、かなりキツイ進行になる、と覚悟する。
月曜遅くに家に帰ると、お弁当の準備がしてある。
ハッと思い出す。明日は以前から子供と約束していた「ディズニーシー」へ行く日だ!。小学校の創立記念日を利用して、団体で子供会のバスで行くのだった。確かに休みを取って一緒に行く、と約束した。慌ててパンフレットを確認する。集合は?げ、朝5時?。あと4時間しかないじゃんか?。いや、それよりも、い、痛い、今、1日を失うのはあまりに痛い……!。
……それでも行った。
その日は、台風だったが、雨天決行である。嵐のせいで園内は空いている。連日の過労でも、楽しんでいる子供の前で弱音は吐けない。子供に合わせて、はしゃぎまくる。吹き飛ばされそうな強風の中で、動いているほとんどのアトラクションに乗った。お父さんと2人でお出かけ、というのがよほど嬉しかったのだろう、往復のバスの中でも子供ははしゃぎ続け、寝る暇は無かった。
夜7時頃には帰ってこれた。さすがの小学2年生も一日遊びまくって疲れているようだ。子供が玄関を上がる、妻が迎える。私も続いて・・上がらない。
そのまま嵐の中を事務所へ直行した。今日の分をやらないと、絶対に間に合わないからだ。
夜10時。停電…!。約1時間分の作業が飛ぶ…!。

闇。国道を通るクルマのライトだけが明かりである。
あぁ、やはり行かないほうがよかったか。仕事を落としたりしたら、どうしよう。そもそも、他の仕事も抱えているし、そっちも今週締め切りだ。暗やみの中でイライラしながら考えた。今ごろ我が子は、楽しい夢を見ているのだろう。
…やはり、行くべきだった、と思い直した。忘れていたのは私の失策で、子供とはずっと前から約束していたのだから。そもそも何のために仕事しているのだ?。子供との約束を破ってまで仕事してどうする?。
…そして金曜日。ずっと泊まり込みで、予定よりも遅れて夜の8時過ぎに仕上がった。山ほどのポジがあるのでクルマで運ぶしかない。疲れ果てた身体で約1時間のドライブ。寝不足で出掛けた私を案じて、事務所の大家でもある社長がわざわざ電話をくれた。クライアント先に着いたのは10時近かったが、ずっと待っていてくれた。その後も、そのクライアントからは仕事を貰っている。

実は結婚前にも同じような経験がある。漫画家時代、締め切り直前に彼女が訪ねてきた。嵐のような忙しさだったので、彼女は無言で帰ったが、何か様子がおかしい。1秒もムダにできない状況だったが、バイクで彼女の電車を追いかけ、自宅近くで追いついた。私が現れたので彼女は驚いたようだった。時間はないから、ヘルメットも外さずに「顔が見たかっただけ」と言って、そのままトンボガエリだったが、この出来事が彼女に結婚の決断させたのだそうだ(原稿もギリギリで間に合った)。
仕事は大事だけど、人生、それだけじゃないよね。