●[WEBクリエイターの2900日]
20.本当のインターネットユーザになってほしい
「電子メールだと、匿名あるいは偽名で何でも言えるから身勝手で過激なことを言われてしまい対応が大変だ。だから、メールでの問合せは受け付けたくない。」

・・・とあるお客様に言われたことだ。
今日は、この問題を考えてみたい。

ちなみに、この指摘は事実だ。電話では礼儀正しく対応できる人でも、匿名となると過激になることは珍しくない。ウチのお客様でも、こうしたメール問題に悩まされている人がいた。ならば、そのようなトラブルの元は無くしてしまえ、というわけだが、この対策は正しいのか。

誰にもインターネットは開かれていて、自由に使うことができる。だが、権利には義務が、自由には責任が伴う。インターネットを使う人は、ネチケットを心得て、互いに協力しあい高めあっていくべきだ。インターネットは広告枠でもなければ、ビジネスワールドでもない。そうした使い方をも許容している「世界」なのだ。
ホームページを開設しメールを取得するというのは、「その世界の住人となって、共に協力しあう」ことを意味している。商売でも何でも同じだが、一方的に利用するだけの関係を求めるのは間違いだ。インターネットが利用者に何らかの恩恵を返してくれるのは、当人がネットワークの健全な発展と維持に協力しているからなのだ(公共の場を利用するなら、その維持・管理に協力するのは当たり前のことだ)。

身勝手・過激なメールを送ることはネチケット(時には法律にも)に反する行為であり、問題は送信者自身のモラルの低さにある。そうした相手に出会ったならば、その間違いを諭し、正しい関係づくりに導くのが正しい。その対策を考えずに、みんなが「臭いものにはフタ」の対応をしていては、ネットはモラルのない世界になってしまい、結局使い物にならない場所になってしまうだろう。
制作会社やマスコミに乗せられていないで、インターネットとは何か、ちゃんと理解してほしい。参加するなら利用者としての責任をわきまえて、真摯な対応をしてほしい。

そもそも、ネットで広報やサポートを行う場合は、考えるまでもなく相手は「インターネットを利用している人」である。電話や対面ではなく、電子メールを望む相手も大勢いるし、その方が冷静で論理的に話し合える人も少なくない。だからこそ、ホームページに広報効果があるのであり、電子メールは重要な接点だ(企業サイトに限って言えば、ホームページなど、メールを送ってもらうための窓口程度の意味合いしかない)。ネット広報の鍵を握っている「メール窓口」を閉じてしまうのは、本末転倒と言っていい。

このところ、個人情報流失やプライバシー侵害などで「掲示板サイト」等が問題視されている。実際、被害者が出ている以上、「2ちゃんねる」などの対応は不適切だと私も思うが、「2ちゃんねる」をなくせばいい、と言った意見には賛同しかねる。
問題の本質は、一部のネット利用者たちのモラルの低さにある。
「2ちゃんねる」のように社会的影響が大きいサイトでは、そうした連中への対策があってしかるべきだが、本当の問題は、ネット利用者のみんながモラルアップに非協力的なことだろう。「嫌なヤツがいるから、真当な人は近づかない」をそのまま放置しておくのも問題だと思う。
それは決して大変なことではない。あなた自身がモラルを守り続ければいいだけのことだ。技術や知識を覚えるのではなく、ごく当たり前な社会の良識を持っていればいい、というだけのこと。良識あるあなたがネットに参加する。それだけで「いい人」の割合を、ちょっとだけ引き上げたことになる。

ネットは便利だから使い続けたいと思うなら、便利な環境を守るために協力すべきだ。自分だけは楽で安全な場所にいて旨味だけは得たい、というのは虫が良すぎるではないか。
接続やサーバ維持などには費用が発生するものの、インターネット自体の利用はまったく無料である。インターネットは利用者一人ひとりの善意に支えられて、成り立っている。そのことを理解しないで権利だけを主張するのはおかしい、と思う。

過激あるいは身勝手メールを受け取ったときはどうすればいいのか?。
簡単である。電話や対面でなら過激にならないのであれば、交渉の舞台を電話に移せばいいのだ。
「この問題についてお電話もしくはお会いしてお話し合いできませんか?。あなたのお名前、電話番号、ご都合の良いお時間をお伝えいただければ、こちらからご連絡いたします」
これで済む。匿名でなければ嫌だ、というのであれば、それは問合せでも意見でもなく、単なる嫌がらせだ。無視するか訴えるか、どのように処理しても問題ない。
ポイントは相手の非を責めるのではなく、「わかってもらう」ようにすることだ。誰しも痛いところを突かれると感情的になりやすい。例え法的に自分が正しいとしても、わざわざ問題を大きくすることはあるまい。話し合って解決できることは、話し合いで済ませるべきだろう。
(ただし、会うときは公の場所で会うことをお勧めする。相手がどんな人か分からないのに、閉鎖された場所に出向くのは愚かな行為だ。)

メールへの対応が迅速に行えないというなら(本来は一定の体制を整えてから商用サイトを立ち上げるべきだが)、サイト上の目立つ場所にそうした事情を記載して、「お急ぎの際は直接お電話ください」といったメッセージを加えておけばよいだろう。そもそも、すぐに返事が返ってくるもの、と思い込んでいるユーザ自体に問題がある。誰もが同じペースで日々を暮らしているわけではないのだから。「迅速」というのは、あくまでも「あなたにできる最大限」であり、無理をしてネットに振り回される必要はない。読み切れないほどメールが来て、それがスパム(迷惑メール)でないなら十分な効果も出ているはず、効果に応じて人手なり機材なりを増やすべきだろう。

あなたとは商売が違うし、環境も違う。こっちの苦労なんて分からないんだろう、とおっしゃる方もいるが、それも違う。私にもそうしたメールは来るし、私はいちいち対応している。しつこいメールがある場合は、本人に通達した上で、そのアドレスを受信拒否設定にすることもある。そうして自分なりの努力を続けてこそ、良質なお客が集まるようになるというものなのだ。
子どもが学校に行けば、勉強だけでなく悪いことも覚えてくるかも知れない。遊びに出かけても風邪をうつされるかもしれない。何かを得るには必ず等価のリスクがあり、それを受け入れられる人だけが、恩恵を得る。それが世の中であり、インターネットでも同じことだ。