●[WEBクリエイターの2900日]
24.漫画業界のトリビア
今回のお題は「業界のトリビア」ってコトなんだけど、WEB業界じゃつまらないから、僕のもう1つの仕事「漫画業界」のハナシをお聞かせしましょう。

1)スピード線は「線」じゃなくて「三角」
漫画で「スピード線」とか「集中線」ってのがありますね。「うぉお!」とか「ど かっ!」とか、そういうシーンで使われる漫画の特殊効果。業界でも集中線と呼んでいるけど、実は「本当の集中線」は線じゃない。すごく細長く鋭角な三角なのだ。
起点は1ミリ幅、終点は0(厳密には限りなくってコトだけど)になって消えていく、「見た目は線にしか見えない三角形」でなければいけない。PCでさえ作れないような、精密なシャープさをプロは求めちゃう。
僕も週刊誌で描いてたけど、僕程度でなく、本当の「本物」はすごいよ。
Gペンとか、かぶらペンで、証券用インクを付けて、微妙な力加減で一発で描く。
しかも、コマに応じてどんな長さでも一発で描ける。毎日1000本練習したけど、僕の集中線は、やっぱり「線」だったなぁ・・。

2)出版社のパーティってスゴイ
年末進行の過密スケジュールを縫って開催される、出版社主催の忘年会。すごく豪華とウワサされ、漫画家本人よりアシスタント達が憧れてるんだけど、実は出版社の規模によって内容は極端に異なる。
僕が出たパーティで一番豪華だったのは、某有名ヤング誌3誌合同のヤツ。料理もゲストもスゴイけど、何よりビンゴ大会がすごかった。何たって参加賞(ハズレ)でさえ、CDプレイヤーなんだから。1番は世界旅行で、2番でもクルマ。おみくじで言えば小吉くらいでレーザーディスクプレイヤー(当時)だったもんね。
一方、僕が連載をもらえた出版社では2番目にビンゴだったけど、もらったのはマイケルジャクソン人形と酸素。最後の方は賞品が切れちゃって、編集長が自腹で「1万円」を放出してたなぁ。先のパーティとはエライ違いだ。
こういうパーティには漫画家とそのスタッフだけじゃなくお友達も呼べるから、ビッグなパーティに出れる漫画家(もしくは関係者)の友人を持っているといいかも。

3)新人は連載すればするほど貧乏になる
漫画に限らず、出版社の原稿料って意外なほど安い。新人の場合、日当換算で1万円出たら超優遇だろう。しかも、そこからアシスタントに給料を払わなければならない。ハードな週刊連載を1人でやるのは無理だから、少なくとも1〜3人のスタッフは必須なのだ。まっとうな雇用条件など無視して日当3000円しか払わない(ていうか、払えない)で連日泊まり込みで働かせたとしても、2人なら6000円が消えてしまう。進行が遅れて援軍を呼んだりすると、あっという間に収入より支出が大きくなっちゃうのだ(しかも新人時代はペースがつかめないから、締め切りはキャリアが短いほうが遅れやすい)。
この地獄のような赤字状態が解消されるのは、最速で1年半くらい後。つまり単行本が出て、その印税が振り込まれたときだ。人気があって売れていれば、突如として毎月1000万くらいの収入に化ける。単行本があまり売れなくても、印刷部数に応じて支払われるから、とりあえず赤字補填くらい(焼け石に水ってコトもあるが)にはなるし、ね。
一番きついのが人気が出なくて単行本が出ないとか、そこまで連載が続かないといったパターン。赤字だけ膨らませて終わっちゃうんだから(僕がそう。単行本出る前に編集部がつぶれちゃったの・・)。

情熱と根性(それとホンのチョットの才能)がなければ漫画家にはなれないけど、実は経済的な問題も大きくのし掛かってくるのだ(見込みのある作家には編集部から救済が出る場合もあるけど、あまり期待はできない)。