●[WEBクリエイターの2900日]
31.ライブドア事件についての考察
以下、ライブドア事件についての私の考察をまとめた。実は自分の中でも整理できているわけではないので、書きながら今も考え続けている・・・・。


■05年3月時点の考え
具体的なビジョンこそ見えてこないが、ホリエモンの言う「メディア融合による発展」は基本的に正しいと思うし、実際、その方向へ進んでいくだろう。「利益を出せるのはあと2年程度」という読みにも同感だ。その程度の期間内で、確固たるポジションを確保できなければ、他社に後れを取るか、どうなるか分からない泥試合的な展開になりかねない。
またインターネットという全世界的なネットワークでの話だから、海外からのアプローチもどんどん具体化していく。だらだらとネットワーク対応を進めているようでは海外企業に負けてしまい、日本のポジションは小さくなってしまう。
将来への見通しでは、ホリエモンの言うことは間違っていないと感じる。旧態依然の人々の思惑に引きずられていては、新時代はやってこないだろうから、誰かが動かなければならないことも、納得できる。買収される側のニッポン放送やフジテレビの中にも、ライブドア支持の人は多数いるのではないか。

だが、それでもなお、私はホリエモンを支持できない。

今回のやり方がモラルやマナーを無視した手段であり、気持ち良く受け入れられる類いのことではないから・・・ではない。法律違反があったって怪盗ルパンはカッコイイと思うし、少なくとも現時点(05年3月)では「グレー」なだけで確実に法令違反とも言えない。そもそも、新興勢力が旧体制を破るために知恵を絞った結果が、あの手法だったのであり、それを非難されては新しい挑戦などできなくなってしまうではないか。
私が支持できないのは、私がクリエイター(現場の人間)で、正しい正しくない以前の問題として、資本家の論理に反発してしまう部分があるからだ。
私がライブドアの社員だったら、こう考える。
「あんた、ウチの会社の社長で、ウチはIT企業だろ。M&A企業じゃない。合併や買収も結構だが、もうちょっと会社の実業を大事にしろよ!」
と。


■05年7月加筆
カネを儲ける、デカくなる。そればっかり。そりゃ私もカネは欲しい。でも、私は、評価されずにもらう100万円より、ちゃんと評価してくれる10万円が欲しいタイプ。たとえ損をしても反発してしまうタイプなのだ。
だから、彼の言葉の1つ1つがカンに触る。
(注)内容は事実だが、以下セリフは本人の発言ママではない。

「ヤフーっぽい見た目になってりゃ、それでいいの」
「新聞出しときゃ信用するでしょ、内容はどうでもいいの」
「ベタ記事なんかどうでもいい、人気ランクが全て」

どれもこれも、クリエイション魂を否定する言葉だらけ。モノづくりに関わる者がこれを支持したら、自己否定と同じだ。似たような見た目であっても、真似なんかじゃない。デザイナーはそこに魂を込めている。どれでも一緒、ではない。
「どんなベタ記事にも世界を動かす力がある」とは、漫画「イーグル」のラストのセリフだが、私もそれを信じている。
また、ニッポン放送社員一同からの拒否声明にも「言わされているだけ」とコメントしていた。これも侮辱的な発言だろう。仮に事実がそうであったとしても、真摯に受け止めなければいけない。そうした言葉が出てきてしまう辺りに、堀江氏の従業員に対する姿勢が見えてしまう。
従業員は従うだけ。意志など持つな、道具のくせに。
私には、そう聞こえる。安穏と会社に頼り切っている社員などは、そう言われても仕方ないが、世の中全部がそうであるような言い草は許せない。
カネはあるほうがいい。デカいほうが強い。それは確かだが、そうでさえあれば他はどうでもいい、などと口にする人物は、決して認められない。

私自身はホリエモンに何の恨みもないし、株式もどうでもよい。彼が悪いやつだとも思わない。彼の語る「メディア融合による発展」も正しい。旧態依然の世の中にも、風穴をあけてほしい。
でも、彼が失脚したら「ざまみろ」と思うに違いない。だって、彼が成功してしまったら、自分が信じてきた世界が壊れてしまうのだから。


■06年6月加筆
前言撤回。「ざまあみろ」とは思わなくなった。彼に好意は持てないが、むしろ、手のひらを返すような世間やマスコミのほうに嫌悪感が強い。罪のなすり合いのような裁判の行方も気に入らない。



<補足コメント>


■05年6月補足/その1
それともう1つ。多くのメディアでも指摘していることだが、ビジョンに具体性がないことも納得できない。「ホリエモン・ドクトリン」と言うべきものが出て来ない。まるで、具体的な政策を示せない政治家のようだ。喉越しのいい「消費税増税反対」を旗印にしていながら、では増税しないで、どうやって国を安定させるのかの具体案を語れないようなもの。ちっとも信用できない。
ホリエモンの弁から見えることと言えば「ライブドアに強力なブランドがついて(本人の言うように)リーチが伸びて儲かる」というだけであり、買収される相手企業の未来も、放送やネットワークの未来も見えてこない。
そもそも、公共の電波を扱う放送局や新聞社には、利益だけの論理ではやっていけないところがある(もちろん利益をあげた上での話ではあるが)。それはプロ野球や競馬場でも同じことで、ファンや地域のためにも、利益とは別な部分で支えていかなければならない部分がある。その覚悟が感じられないのも、大きな問題だ。

■05年6月補足/その2
ライブドアという企業自体にも、正直納得できない部分がある。IT関連企業としてメディアでも語られているが、本質的には「M&A企業」なのではないか?。
WEBサイトを見てもYahooのコピーのようで、なんら独自性は感じられないし、コンテンツ全般が他ポータルの「うわべだけを真似たもの」にしか見えない。むろん、うわべだけなので、使いやすさや情報量でも「本物」には遠く及ばず、「柳の下のドジョウ」を狙っているだけ(もっとも、それは堀江氏自身、認めているようだ)。
すなわち、生み出す、作りだす、育てるといった企業本来の姿が見られないのであり、その点からもライブドアが、様々な会社の経営に参画していくことを危惧してしまう。堀江氏は、「リーチが増えればYahooにも勝てる」という。露出を増やして効果を高めるのは宣伝の基本だが、あくまでも「優れたモノの認知度を上げる」から有効な方法なのであって、ライブドアサイトがYahoo以下である限り、アクセスが一時的に伸びる程度のことではないかと思う。
あちこちで売っているけど質が悪いモノ。一方、同じモノで質の良いものが他店にあることも知っている。なら、いくら露出しても他店で買うのが普通だと思うが?。

■05年9月補足/その1
あまり考えずに堀江氏を応援する人々にも、納得できない。若い人が多いが、旧体制がアタフタするのを喜んでいるだけのような意見も多いからだ。それって「オヤジ狩り」する連中と、本質的に変わらないのでは?
バカな経営者は願い下げだが、それを殴ったから拍手、ってのは幼稚に過ぎると思うが?。
だからって、旧体制を支持するわけでもない。堀江氏がモノを作る人々を尊重してさえいれば、私は堀江氏支持派だったに違いないからだ。世の中、てっぺんで指図する人ばかりではなく、現場で日々を闘う人の方がずっと多い。そういう人はカネも力もないからどうでもいい、と切り捨てて、本当にやっていけると思っているのだろうか。屈する人間ばかりじゃないと思いたい。

■05年11月補足
そもそも私は、会社は株主のものだと思っていない。むろん、ウチは有限会社であり株の話とは無縁なのだが、基本的に株主とは、「その会社のビジョンや事業に賛同して資金を出すもの」と考えている。有限会社は社長のものかもしれないが、株式会社は「みんなのもの」だと考えている。そして、この「みんな」には、社会全体が含まれる。会社とは「法人(人)」であり、社会の一員なのだ。直接的な利益は会社とその関係者に限られてくるが、その在り方は、社会に有意義でなければならない。従業員は、株主の顔色をうかがって仕事しているわけではない。

大量の株を持っている大口スポンサーは、その会社の業績が大きく影響してくるのだし、企業に対して様々な権利を有するのは理にかなっているが、だからといって「株主のもの」などと考えるのは間違いだと思う。そうでなければ、「カネはあるがビジョンはない」ような連中に振り回されてしまい、価値ある仕事が出来なくなる。
「でも株主あっての会社だし、余計な口出しして損したとしても、それも株主が損するわけで、構わないじゃないか」という意見もあるだろう。正論である。
「それが嫌なら上場しなきゃいいんだ」というのも正論だ。
でも、上場したほうが資金力は向上する。
社会にとって有益なサービスや事業が大きくなるのは、いいことだろう。ある会社が大きくなる、業績が伸びるというのは、その会社のやっていることが、社会に貢献しているということだと私は思う。そうでないことが多いみたいだが、例えタテマエだろうと、それが本当だと思う。妬んだりするどころか、大したもんだ、よくやった、と言われるべきだ。
その「いいこと」をより広げるために、上場して資金を集める。いいことじゃないのか?。なのに、上場をいいことに株を買って、目先のカネだけで事業を振り回すなんてのが、本当に正しいのか?。
私自身は、自分のやっていることを他者に振り回されるのは御免だから、有限でも個人でもけっこうだが、本当にいい仕事なら、どんどん大きくなって、もっと世の中に役立ててほしいと思う。それをマネーゲームで阻害されるのは、嫌だなぁ。
彼らの言い分は正論に違いない。けれど、どうしても納得できない。資本主義とは、私が思うほどに、社会のことを考えていない、ということなのだろうか。