●ヒジョーに問題があった某社の案件
■某社(東京都) 様(10年5〜6月)
この件に関しては2011年9月、名前を伏せさせていただきました。この仕事は発注元企業には何の問題もないのに、間に入った代理店によって批判せざるを得ない結果になってしまった案件だったのですが、発注元がトンデモないかのように勘違いされかねない文面になってしまっていてクレームをいただいたためです。そうした問題点について謝罪するとともに、発注元の名誉を守るためにも、また、同様の事例の再発を防ぐためにも、別途「詳細」として、正しい事情を公開させていただいています。

この仕事は保険商品のニード喚起のためのコミックパンフ。3作の予定だったのだが、2作までで何の連絡もなく中断になった。2作出来上がって納品したところで、代理店が後出しで「契約書」を送ってきて、記載されている条件で署名しろと要求されたのだ。
後から発注条件を決めるなんてのは言語道断。冗談じゃないよ。もっとも、ついつい後回しになってしまう例は珍しくなくて、例え後出しでも、特に問題のある条件でなければ、認めてしまうことは多いんだけど。
けれど、このときは一部、承認できない条件が含まれていた。よくある「著作権は当社に帰属します」というヤツで、ウチではそれを認めていない。著作権は手放さない、これは絶対の条件で、料金を値引きすることはあっても著作権を譲渡することだけはしない。

その理由は2つ。1つは作品を守るため。もう1つは、ウチのWEBやパンフレットなどで「実績」として掲示するためだ。これらについては「提供作品の利用規定」として予め記載している。つまりウチでは、この「提供作品の利用規定」を受け入れていただくことを前提条件として、仕事を引き受けさせていただいているわけだ。それが嫌なら事前に相談するか、発注しなければいい。ボクは決してゴリ押しで売り込んだりはしないのだから。(というか「ピンポ〜ン、マンガ買ってくださ〜い」なんていう営業は無理だよ!)

だから、このままでは署名できないと断った。代理店は「いや、実際にはそちらの条件通りでいいんです、書類上だけのことですから」と言うのだが、書類にサインしてしまったら、口頭での約束事なんか効力ないだろ!ボクがサインするのなら、代理店にも「著作権は作者に帰属する」とサインしてもらわないと。だって書類上だけのことなんでしょ、ボクに要求するなら、そっちも同じだけ折れてもらわなきゃ。そうでない限り、ボクは絶対にサインできない、と伝えた。
(→参考資料:当時代理店に返信したメール文面

そしたら……それっきり連絡が途絶えてしまったのだった。

結局、契約は成立していないのだが、納品した作品はすでに使用されている。だから、こちらもサイトに掲載させていただいた。非常識なことをする相手に遠慮はいらないもんね。

ところが、1年以上も経過した2011年9月、代理店から連絡があり「この作例を削除してくれ」と。今更ナニ勝手なことを……と思ったのだが、どうやら代理店は、ウチの請負条件を発注元企業にキチンと伝えていなかったようだ。確かに、ウチに後から契約条件を突きつけてくるくらいだから、発注元企業に「こういう条件でこういう作家を使いますよ」と事前説明していたとは思えない。後から説明したらしいけど、ボクが後出しを受け入れられないのと同じで、発注元だって受け入れないだろう。ボクが勝手に作品を公開していると思ったかもしれない(念のために、もう一度書いておきますけど、ここに掲載するのはウチが仕事を引き受ける「前提条件」だったんですから)。
それに、考えてみればボクも軽率だったとは思う。発注元企業には問題ないから、いつも通りに名前を伏せずに書いたんだけど、一方で問題がある代理店名は「武士の情け」で伏せていた。だから、一部だけを読んで勘違いしてしまう読者もいたかもしれない。批判的なコメントに企業名が出ていれば不快に感じるのも当然だ。
こうしたことを考えて削除ではなく詳しいコメントに切り替えさせていただいた。削除だと、勘違いした人は勘違いしたままになってしまうかもしれないから。発注元企業の名誉を守るためにも、ここはキチンと説明すべきだと思う。

大変申し訳ない。
発注元企業様は何も悪くありません。心からお詫びいたします(代理店の名前をさらして、発注元を伏せればよかったんですね、反省しております)※。

※本件には発注元企業をはじめとして、他にもいくつかの代理店が関わっているようだ。関係者の方で、もしも事情を詳しく知りたい方がいらしたら、当社(uruno@urutaku.com)までご連絡を。

……それにしても、契約をほったらかしにして1年以上も放置というのは、どういう神経なんだろう。今回の連絡で、この企画は3作ではなく2作までで中止になったのだと知ったのだが、その連絡すら来なかった。3作目だって途中までは描いていたんだよ?非常識にもホドがある。まったくアキレてしまうよ。

なお、こうした作品をご検討の企業の皆様へ。著作権を放棄することはできませんが、ボクらも作品を他社に転売したり流用したりはしません。御社のための作品は御社以外に提供しません。
また、社名を伏せてほしいのであれば、ご説明いただければ今回のように善処します。(ただし業界の慣習だから、という理屈はご勘弁。ウチに発注したことを人様に知られたくないというなら、発注しないでください。ボクらは自分が描いた作品を愛しています。デキがよかろうと悪かろうと、堂々と、あれはウチの子だと主張させて頂きたいと思っています。できれば全ての作品に作者名をクレジットさせたいところですが、広告として考えると、それが邪魔な場合もあると思うので、そこは強く主張しません。が、当社サイトで「ウチの仕事」として掲載するのは認めていただかないと、我が子が哀れすぎます。自己満足に陥ることなく、企業に成果をもたらそうと心がけていますが、それでもお金を稼ぐためだけに、こんな厄介な仕事をやっているわけではないのです)

■担当スタッフ
ページ数/色数 4ページ×2作/カラー
企画・監修 某代理店(名前は伏せておく)
構成・原作・脚本 うるの拓也
作画(コンテ・下絵・ペン入れ) 高橋昌恵
着色・演出・仕上げ・デザイン 佐々木真知・うるの拓也


●当時、代理店に返信したメール
以下のメールを送信した直後から、先方代理店は沈黙し、その後一切連絡してこなくなった。この代理店からオーダーが入ったのは4月30日で、そこからこの日まで、ほぼ数日おきに連絡があったのに、ピタッと止まった。
以下文面の中で、ボクは代理店担当者に「無茶で無理な要求を引っ込めてくれるなら、本件をホームページに掲載したり当社営業に活用しないようにする」といった提案をしている。それ自体、ウチとしては受け入れがたいことなのだが、いつまでもモメゴトに関わっているのはバカバカしいので、手切れ金代わりに提案したのだ。
だが、一切返答はなく、ボクは交渉決裂と判断した。無責任きわまる態度だし、それならボクも何も遠慮はいらないわけで、批判事例として「実績」に掲載したわけだ。
ちなみに、2011年9月の連絡では「作成中だった3作目は、この件とは関係なく中止になった」と説明されたけれど、ちょっと信じられないよね。ボクは、このメールの中で「今回の契約を要求するなら3作目はお断り」と書いていて、それを送信したら、タイミングよく偶然中止になった、なんてさ(しかも、そう知らせてきたのは1年以上も後だなんてさ・・・)。

2010年7月22日送信メール
以下メールログは基本的に手を加えていないが、先方担当者の実名のみ、伏せさせていただいた。
なお、文中にいくつも「※」の補足文があるが、これはボクのメールのクセであり、後から挿入したわけではない。


うるのです。

> 現在、クライアントにて協議中のようですので、話が動きましたらご相談させてください。
> (言われてみれば、そうですねぇ…というような修正です。)

(中略)

> 話は違いますが、以前お話したかと思いますが(していなかったら申し訳ありません)
> 弊社とうるの先生の事務所との間で「機密保持契約」を結ばなければなりません。

してないですよ?この件は初耳です。

※当社は、これまでのメール送信・受信ログをすべて記録・保管してあります。
 (ただし添付書類は含まない)

> 内容をPDFにてお送りさせていただきましたので、ご確認いただき、問題がなければ、
> 改めて郵送にてお送りさせていただきますので、御捺印の上御返送くださいますよう、
> お願いいたします。


さて、以下、かなりウルさく書いてしまいました。
こういう契約をするのは何度も経験していますが、今回の内容は安易に「ハイ」とは
言えない感じなんですよ。

ボクがうるさくツッコむほど、厳しい制限を求めるものじゃないのかもしれないけれど、
気軽に応じられる事でもないので、現段階では「問題アリ」なので・・・。
●●さんを困らせたくはないんですが、でも、この内容は・・・です。



______________________________

まず「第2条(定義)」にある機密情報の定義。「技術上・営業上の全ての情報を含む」ということは、御社から届いた資料類だけでなく、当社にて制作した作品(納品物もしくは成果物)も含まれるということですよね。作品には、御社から届いた情報が反映されているわけですから。

さらに「第8条」には、広告の禁止とも書かれている。
けれど、いきなりで申し訳ないですが、これについては一考いただきたいです。ウチの場合、作品制作の実績が営業上もっとも重要な部分になりますので、自社ホームページ、広告物などに実績を記載できないのは、とても困るからです。

この「第2条」「第8条」と「第4条」によると、作品を見本として、他のお客に見せる事さえできないことになる。そりゃ無茶ですよ。

ボクたちは、いちいち著作権を主張しないことを宣言していますが、手放してもいません。また版権がどうであれ、著作者であることは変わりません。その作品の作者である事を主張できない、という条件は飲む事はできません。

それに「第7条」で機密情報の所有権は御社に帰属、とある。もしも作品も機密情報の一部だとしたら、これも受け入れがたいです。
御社に渡すのは「使用権」であって、所有権ではありません。当社は作品を勝手に第三者に提供したりすることはない(発注者の利益を損なうようなことは一切しない)ですが、所有権を手放しているわけではありません。
これらについては当社ホームページ「提供作品の利用規定」で常に公開しています。(もちろん御社からのご発注以前からですし、ご発注後に文面を改定したりもしていません)

http://www.urutaku.com/comic/09.html

さらに「第4条」の「4」や「5」では、資料類の返却義務があることになっていますが、FAXやメールで受け取ったモノを返却するって、おかしな話です。だって無意味だもの。
でも、そうした場合は例外とする、といった免責事項は書かれていないようだから、求められたら返すしかないわけですよね?

それは無理だなぁ。せいぜい破棄するくらいだけど、それも「破棄したよ」と報告するくらい。証明はできないんですよねぇ。
(そもそもデータ復旧ソフトを使えばデリートしても復活できる場合もあるわけで、ハードそのものを破壊でもしない限り、そんなモン約束できませんよ)

その上、契約終了時などには、すべての機密情報を引き渡せと書かれています。全てというからには、バックアップもダメということでしょうが、これは完全にお断りです。
当社制作物のデータは、全て当社にて保管しています。時に、バックアップのコピーをお渡しすることはありますが、当社のデータを完全に渡すというのは、ありえません。(これも、仮に応じたとしても、バックアップが存在しない証拠は提示できっこない)

だいたい、条文を読む限り、こうした契約をする事実も、条文の内容も、御社と取引している事実も伏せろ、ということでしょう?
すいませんが、なんで秘密にしなきゃならないのか理解できないです。業務内容そのものは分かるし、契約内容を伏せるのも多少は分かるけれど、契約している事実まで隠す必要があるとは思えないです。(他人に聞かれてマズイことが書いてあるわけじゃないだろうに)

条文では「法令によって開示を義務付けられた場合」にも御社に事前に許可を取る必要があると書かれていますが、公正取引委員会などに聞かれた際には、御社の許可があろうがなかろうが公開しますよ?
こうした場合は許諾じゃなくて、単なる報告でしょう。
御社の許可が出ないから法令を破るなんてことは、ありえないのだから、仮になんらかの条件をつけるとしても、開示したことを報告するだけでいいはず。許諾が必要、というのは筋が通らないでしょう?

実際、去年当社には公取委から、とある会社との取引内容に関する調査がありました。もちろん正直に、その会社に確認したりせずに答えました。
(契約書等での業者への事前説明が不十分だったため、調査が入ったようでした。ただし正式な契約書がなくとも、その会社と当社の間では困った問題はありませんでしたが)


以上、どう考えてみても、おかしな条件です。

当社は、当社のオリジナリティな能力・技術・知識で仕事を遂行する業務ですが、この条文はそうした職業を想定したものとは思えません。従って、この条文そのままに受け入れる事はできません。

最低限、作者として作品を手掛けた事実の公表権と、実体のないデジタルデータ、FAXなどの返却義務やバックアップなどのオリジナルデータの受け渡し義務が生じない事を認めてもらえないと、どうにもなりません。

文面で契約を交わす以上、上記許諾事項についても、文面で許諾書をいただくことになりますよね。
その場合、どちらかの文書を先に署名するわけにはいきませんから、同時でないとマズイですね。

なお、広告業には「守秘義務」がつきものであり、本件もそれに準ずるものであろうことは理解しております。
また、そうした契約の際に、御社と同様な条件を提示されることもあります。

が、それを受け入れるかどうかは別の話です。
条件が飲めないなら、オーダーをお断りすることもあります。また、特例的に条件を変えていただけるのであれば、お引き受けすることもあります。いずれにせよ、そうした条件は、お互いに業務以前に提示すべきものであり、今回のように後から要求するのはルール違反ですよ。

内容に無理がなければ、後出しでも応じる事はあるのですが、今回の条文には、当社では約束を守り切れないと思える内容があるので、気軽にイエスとは言えないんです。
(守れなくて取引できなくて、あちこちからクビにされたとしても、それは当社の問題ですし、納得できないことを納得しなけりゃ仕事できないなら辞めたほうがマシだし)

御社がそうであるように、当社も当社なりのルールに基づいてお仕事を引き受けております。
当社はできるだけ安くお引き受けしていますが、そのために自らを犠牲にしようとは考えていないからです。安いのには理由=条件がある。その条件を受けれてくれるならお引き受けできます、ということであって、提示している料金も、その条件に基づいたものです。


なお、当社からの要望が認められず、なおかつ、この契約を交わさないと支払い等に問題が出るといった場合は、当方は本件を公的機関に報告し、しかるべく対応させていただきます。
なにしろ、この書類の話が出てきたのは最初にオーダーいただいてから3ヶ月近くも経過した「今」なのですから。
遡って適用されては困ります。


最後に。
もしも、お送りいただいた通りの条件でないと業務発注が難しいというのであれば、以降のオーダーはお断りさせていただくしかありません。すでに納品した2作品については、

1)メール添付でお送りいただいた資料の返却はしない
2)バックアップの保管は認める

というのであれば、その他の条件は、御社の要求通りに対応(作品や御社との取引の事実を当社ホームページに掲載したり当社営業に活用したりしない)します。
ただし、本契約書を交わす事はできません。(合意できる条件で覚え書きを交わすなどの対応となります)

______________________________


・・・と、ウルさくツッコミましたが、多くの場合、こういうのはタテマエで実際にはそこまでウルさくないことも多いものです。
御社もそうなのかもしれません。
ただ、書面を交わすとなれば、慎重にならざるを得ないのも事実でして、安易に応じる事はできないんです。
ご理解ください。




デザイン/イラスト/コミック/DTP/プランニング/WEB
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
うるのクリエイティブ事務所
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
代表 うるの拓也(Takuya Uruno)
───────────────────────────
〒300-0843
茨城県土浦市中村南3-4-19グリーンヴィラ土浦203
TEL・FAX ■ 029-842-0929
web site ■ http://www.urutaku.com
電子mail ■ uruno@urutaku.com
───────────────────────────


・・・以上である。このメールが先方との最後のやり取りになり、返信はなかった。
ただし、担当者から直接の電話があり、そこでは話したことを付記しておこう。
先方担当者は「これは、あくまでもタテマエであって、実際には自由にして構わないから」と言った。
だが、口頭で何を言おうが、契約書にサインしてしまえば残るのは、そっちだ。
だからボクは、タテマエだというなら、こちらもタテマエとして「ボクはこの条件に従わなくていい」とする覚書を用意してくれと言った。双方の代表者の署名入りで、最低2通作って、お互いに保管すべきだろうと。そうしてくれるなら、契約書にサインしようと。書面で残ってしまうようなモノに、しかもボクは合意していないのにサインを求めるのなら、こっちだって同じ。
先方担当者は上司に聞いてみます、と言って電話を切った。それが本当の最後だった。
その日から、一切の連絡をしてこなくなったのだった。
なんと無責任な。せめて「上司に聞いたけれどダメだった」とか、正直に言えば印象も違うし、ボクだって、その担当者の立場を考慮してあげたのに。