●[広告漫画家のつぶやき]
04.個人事業主なのに自立できていない漫画家たち(その1)
出版社や編集者にオドされたとか、ひどい言葉を言われたとか、漫画家にまつわるパワーハラスメントは結構多い。もちろん「もう描かないぞ」と漫画家が出版社をオドすこともあり得るわけで、別にどっちが悪いとか言いたいわけじゃない。
ただ、そんなクダラナイことに振り回されてちゃアカンとは思う。

パワハラが起こるのは、パワーがあるから。
つまり、権力とかお金とか。相手が失うと困るものを握っているからこそ、脅すことができる。
漫画家の場合は「仕事(掲載させてくれる)とお金(原稿料や印税)」だよね。
その2つを握られちゃってるから、逆らえない。
まず、それがヘンなんだよ。

特定の出版社で何年連載していようが、漫画家って結局は個人事業主なんだよ。
10年連載してたって、出版社の社員ではないのだから。便宜上、会社形式にすることはあっても、実質としては個人事業主。社長さんなんですよ。
事業主である以上、キャッシュフローとかリスクマネジメントとか、ちゃんと考えなきゃいけない。なのに、そういうのを気にしない・・・というか、関わりたくないと思っている人が多いんだよね。
だから、その隙を突かれちゃう。

そもそも、漫画家の多くは契約書さえ、ちゃんと交わしていない。ということは、本当は明日のことさえ分からない日雇いのようなモン。たまたま、毎日仕事にありつき続けてるっていうだけなんだけど、連載という継続した状態が続く上に、印税等の収入があるから、それが見えにくいというだけのこと。本当は、とても不安定なモノなのだ。
いいですか?
しつこいけど、漫画家は個人事業主ですよ?
実社会で、それも従業員じゃなく、個人事業主として生きるなら、個人で生きていけるだけの力をつけなきゃ、どこかで足を掬われる。会社員よりも自由なんだけど、その分キツイこともある。そういうモンなのだ。

会社員ならパワハラされたら、上司や会社に訴え出ればいい。マトモな会社なら、ちゃんと対処してくれる。今の企業は不祥事をなにより恐れるからね。どこの会社も(かなりお金をかけて)企業倫理委員会などを設立して、社内外の不祥事処理に対応してますよ。まぁ、有名無実で機能してないなんてことも多いみたいだけど、マトモじゃないなら転職するなり、法的手段を取るなりすればいい(そういうときに転職できる力やコネをつけておくっていうのが、サラリーマンの処世術だよね)。

でも、個人事業主なら、パワハラされて訴えるというより、そもそもパワハラされるような隙を作らないようにしなきゃダメ(徳川家康の家訓みたいだけど、これが現実だよ)。

お客様を失えば、仕事を失い、お金に困る。だから逆らえない。
でも、お客だって、業者に嫌われて誰も仕事を手伝ってくれなくなると困るのだ。特に有能な業者には、嫌われたくないと思うもので、ボクだって同じ。
で、ボクの場合は、この問題を回避するために、できるだけ多くのお客様と取り引きするようにしている。100社と取り引きしていて、その中の1社が無茶を言うから取引きを辞めたとしても、100分の1に過ぎないからね。ほとんどのお客から嫌われるようなら、それはボクのほうが悪いわけで、自己責任。誰を恨むでもないよね。
そういう形でやってるからこそ、毅然とした態度がとれる。毅然とした対応は自信にもつながるし、それが信用になることも多いのだ。そもそも、特定のお客に食わせてもらうカタチってのは、相手にも負担になるから、嫌われることも多い。自立できてるってのも、仕事を任されるためには必要な事なのだ。

それと、ボクは元々が漫画家だから、お客様の依頼を受けて仕事していても、お客様のためにはやっていない。「お客様のお客様」のために仕事しているつもり。出版社で描いていても、読者のためにやっているというのと同じ。
別の項で書いた「出版社のプロジェクトなんだから」というのと矛盾しているように感じるだろうけれど、企業ってのは利益を上げるためにあるのであって、利益を上げるには、お客が企業の商品を買ってくれなきゃダメ。しかも商品は、お客のためになるモノじゃなきゃいけない。
広告の正義って言うのは「見る人のためになるものを紹介している」から成立するんだと思う。ということは「企業のプロジェクトを請け負う=お客様のお客様のことを考える」ってことなのだ。そうであってこそ、企業がボクに投資した意味があるんだから。

さて、そうなると、依頼主とボクの関係は、編集者と漫画家っていうのと全く同じになる(実際、作るものもマンガだしね)。下手に依頼主の言いなりになっていては「お客様のお客様」のためにならないこともある。だから意見を言うし、ときには激しくぶつかることもある。
でも、最終的な決定権は、おカネを出す企業側にあるわけ。
その企業の仕事なんだから、それはトーゼンで、ボクも逆らえない。
でも、逆らえないけれど納得できないことはあるわけで、どんなに話し合っても平行線だったりすると、ボクはオリちゃう。そのまま納得できないままで仕事を続けても、いいことはあんまりないから。
納得できないだけで、企業側の言い分が正しいのかも知れない。でも、正しくないと思ってるのに仕事をするのは「お客様のお客様」に対する裏切りだし、お金を払う企業にも失礼でしょ。
潔く、オリますね。そこまでにボクが何枚描いていようと、それは手切れ金だと思って忘れることにしちゃう。

ここで書いたようなことは、滅多にあることじゃない。
多少の意見のぶつかり合いは、ほぼ毎回あるけれど、お互いにイイモノを作ろうと思ってぶつかってる分には、問題じゃないく、むしろ、熱意があるという好評価につながることが多い。ボクだって仕事はほしいから、無茶や我が儘は言わないもの。というか、可能な限り、企業の言い分を聞くようにして、多少の無理はキャリアと工夫で乗り切る。お客様を立てるのはアタリマエだし。
ただ、分かりあおうという気持ちを失って、どっちかが単なるゴリ押しになっちゃったときが問題で、それを何度か経験したけれど、そんなのはレアケースで、あんまり気にしない事にしている。

でも、モメて仕事できなくなったらオシマイだ、なんていう状態だったら、ボクだってぶつかれなくなる。イエスマンになってしまい、悶々としながら作り続けることになっちゃうだろう。どうしたって先立つモノは必要だから。
実は、若い頃に、お客が少なくて、そうやって仕事してたときもある。
でも、それってデザイナーでも漫画家でもなく、タイコモチなんだよね。好きで選んだ仕事なのに、全然違うことをやっているなんてヘンだなって思った。器用に気持ちを切り替えていける人なら、何とかしちゃうことができるのだろうけれど、漫画家なんてのは、そういうことが出来ない。悶々鬱々しちゃうんだよね。

だから、ボクはできるだけ、多くのお客を獲得できるようにやってきた。自分が儲けるためというだけじゃなくて、気持ちよく仕事を続けるためにね。それでこそ、お代をいただく仕事になると思うから。

・・・と、長くなっちゃったけど、そういうことを考えていくと、漫画家って歪んでるでしょ。

個人事業主なのに、特定の出版社に首根っこ掴まれちゃってる。コトバとしては対等であっても、実質は対等でも何でもない。そういう関係の中で対等であるために交わすはずの契約書すらないという、何とも非常識な状態。
本当はフリーなはずなのに、自由なんかない。


「いや、悪い編集者ばかりじゃないよ」

そりゃ、そうですよ。
でもね、どんな状態だって、うまくいってるときは、ど〜でもいい。リスクマネジメントってのは「うまくいかないときにどうするかを考えておく」ってことであって、その意味で漫画家は無防備すぎる。経済的にも、体制的にも。

それにね、連載って数年続くことが多いでしょ。
普通の個人事業主が「数年間はA社の仕事しかできません」なんて言ったら、もう他の全てのお客さんを手放すのと同じ。みんな、今仕事してほしいんだから、どれほど才能があろうが、使いたいときに使えないヤツなんか、いないのと一緒だから。
まぁ、連載漫画家っていうのは他の仕事とは違うし、出版社同士もお互い様ってことで済んでいるわけだけど、歪んでるのは確か。数年間だと思っていても、人気次第で数カ月だったり数日だったりするんだから。で、空いちゃったからやっぱりやりますって言っても、そのときには、もう他の作家で連載が始まっちゃってたりする。
先の見通しゼロでしょ?
人生設計として歪みすぎだと思うけどなぁ。

誰も助けてくれない個人事業主なのに、収入面で「特定の出版社」に依存しすぎていて、本当には自立できていないっていうのが、漫画家最大の歪みだよね。
現在の状況の中で漫画家をやっていこうと思うなら、出版社の仕事と平行して、自立の道も、模索すべきだと思うな。

つづく