●[広告漫画家のつぶやき]
09.連載漫画家に人並みの暮らしは許されないのか?(キャッシュフロー)
前回のつづき

では、そうした無理がなくなって、フツーの会社員と同じに完全週休2日制、一日9時間勤務で働けるようになったとします。
そしたら、連載漫画家は救われるのでしょうか。
いや、売れちゃった漫画家はいいんですよ。それまでの経済状態がどんなに悪かろうが、宝くじに当たっちゃえば、どうにでもなるでしょ。

けど、新人や印税が当てにならない程度の段階では、どうなるのでしょう?

キャッシュフローを考えてみます。新人も含めた平均として原稿料は「1万円/モノクロ1ページ」としておきましょう。新人でページ1万は破格だと思いますけど。

先の「ページ当たり3時間」という作画ペースにあわせると、毎日の収入は約3万円ということになりますが、それがそのまま漫画家の収入になるわけじゃない。
まず、源泉徴収で1割、つまり1,000円引かれますね。
それからスクリーントーン代などの材料費が発生します。作家によってトーンを使う量は違いますし、どこのメーカーのトーンを使うかでも大きく変わってきますが、ここではページ当たり1,000円くらいとしましょう。

「コミックスタジオ」などのマンガ作成ソフトを使う事で、こうした経費は圧縮できるのだけど、それは「漫画家各人が工夫している」だけのこと。基本的な原価コストとしては計上しておくべきだろう。


さらに自宅兼仕事場の維持費(家賃、光熱費など)。家賃が月々6万円の安アパートだとしても、光熱費等の雑費を加えて10万円くらいは見込んでおくべきでしょう。週休2日制なら、それを毎月22日程度の労働日数で賄うのだから、1日の仕事から約4,700円は割り当てるしかない。1ページの原稿料から1,500円くらい引かれているようなものです。

そして、もっとも大きいのがアシスタントの賃金。
アシスタントは本質的には弟子でも生徒でもなく「お手伝いさん」です。
漫画家のアシスタントになるのがデビューへの近道であることは確かだけど、だからといって安月給で働かせていいってモンじゃないはずなんです。
漫画家に世間並みの条件を当てはめているのだから、アシスタントの賃金も世間並みで考えてあげるべきでしょう。
マンガは特殊技能です。そのアルバイトなら、平成20年現在の常識で考えれば、どんなに安く考えても時給900円〜1,000円は支払うべきだと思います。そして3時間1ページで仕上げるためにアシスタントが2人必要だと仮定します。となると、彼等に支払う賃金は1ページにつき3,000円×2の6,000円となります。

以上を、ちょっと合算してみましょう。
スクリーントーンと源泉徴収が1,000円×2、仕事場が1,500円、アシスタントが6,000円。合計9,500円。残額は500円。3時間で。

漫画家本人の収入は、時給166円!?
メシも食えない!!
しかもコレ、新人でもページ1万円という、好条件で試算しているのに!


・・・まともな社会の、まともなルールに当てはめると、こんな答えが出来てきちゃうんです。
(むちゃくちゃなようだけど「原稿料はアシ代でなくなってしまう」という作家自身の発言と合致してますね)

確実に破たんしているよね・・・。
それが、かろうじてなんとかなっているのは、まともなルールじゃないから。

一日15時間以上やって、日産5万円稼ぎ出す!
それで月収100万円前後(悪くても75万円くらい)にする!
アシスタントは時給じゃなく月給制で10万程度、残業代はなし!
(メシは食わせる)
本人もアシも、関わるスタッフはみんな過酷な条件でやる!

・・・・そこまでやって、はじめて連載をスタートできる。
「原稿料はアシ代でなくなってしまう」とはいえ、最初からそうだったら、印税がもらえるようになる前に飢え死にしちゃうからね。あり得ないようなメチャクチャな労働条件を受け入れないと、漫画家になれないんですよ。
・・・・やっぱり、オカシイですよね。