持ち込み作品がひろげてある。
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担当: |
うん、しっかり直ってるね。
これなら新人賞に回しても大丈夫だと思うよ。 |
う: |
ホントですかっ!よろしくお願いしますっ! |
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NA: |
うるのは、学生時代から出版社へのマンガ持ち込みを続けていた。
そして在学中に描いた作品が集英社で目に留まった。
「絵が雑すぎるが面白い。全部丁寧に描き直せば新人賞はとれる」との言葉に、学生時代から全編を描き直し続けていたのが、この作品だった。 |
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そして2ヶ月後……。
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書店の店頭。
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少年ジャンプを手に取る。
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恐る恐るページをめくる。
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新人賞(注05)のページ。
自分の名前と作品が出ている。
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手が震え、目に涙を溜めている。
※注05: |
■新人賞
週刊少年ジャンプの月例賞だったが、このときの感動ははっきりと覚えている。
ドラゴンボールの連載が始まったばかりの頃で、同じ雑誌に自分の名前が出ている事が、恥ずかしくも誇らしかった。ちなみに受賞作はギャグマンガでありながら、ストーリーマンガと同じ31ページの読み切り作品。
新人賞の賞金をいただいたのは、6月頃だった。そのお金でアパートを引っ越し、ファミコンを買ったから、よく覚えているのだ。 |
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(会社の退職シーン〜編集部に電話しようとして躊躇するシーンへ)
NA: |
……こうして一流誌でのデビューを飾ったのだが、会社勤務と漫画家の二足のわらじは、社会経験の浅いうるのにはこなせなかった。デビューしたとはいえ、次の掲載は新作の出来次第なのだから、実態はないも同然なのだ。
また、社員である以上、どうしても会社を優先せざるを得ない。
徐々に担当編集者との距離も遠のき、掴みかけたプロへの道はかすんでいく・・・。 |
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(先輩漫画家との出会い〜アシスタント風景)
NA: |
……結局、1年後にデザイン会社を退職し、とある漫画家のアシスタントとなった。
デビュー時にも「絵が雑」と言われていたため、マンガ修行をやり直すことにしたのだった。 |
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(新作持ち込み作品を描くシーン)
NA: |
……と同時に、新たな作品づくりもはじめた。
一度デビューしているのだが、それは忘れて、もう一度ゼロからアタックすることを選んだ。完成した作品は集英社ではなく、少年キング(注06)で知られる名門「少年画報社」へ持ち込んだ。 |
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(再デビュー時の雑誌表紙と作品カット)
NA: |
……この「新作」は、そのまま新人賞となった。
再デビューである。
ゼロからやり直したモノが、再び賞を取ったことで、自信もついた。そして、担当編集者も決まり、いくつかの読み切り作品を描いていく。
むろん、アシスタントやアルバイトをしながらの生活だった。 |
※注06: |
■少年KING
老舗と言っていい漫画雑誌だったが、当時はすでに「キング」から「KING」に変わり、発行も隔週になっていた。
藤子不二雄「まんが道」、松本零士「銀河鉄道999」、聖悠紀「超人ロック」、吉田聡「湘南爆走族」などが連載されていたが、ギャグ漫画(古くはダメおやじなどが同誌)は低迷しており、おかげで連載が取れた。 |
その1年後……。
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街の風景。ドラクエ3(注07)発売などの看板。
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本屋の店頭。少年KING。
連載陣の中に「うるの拓也」の文字。
NA: |
何度かの読み切り作品を世に出してから、ようやく連載作家の1人となった。
人気が高いわけでもなく、ページ数も多くはなかったが、限られた紙面で「レギュラー」として著名作家と肩を並べることになる「連載」はとても大きなことだ。
プロになった実感を感じ始めていた……。 |
※注07: |
■ドラクエ3
社会現象とまでなった有名ロールプレイングゲームの第三弾。
発売当日は前夜から、ある作家の臨時アシスタントで徹夜だったが、締切間際にこっそり抜け出して秋葉原まで買いに行った。(××先生、ごめんなさい)
その後、徹夜続きの身体でありながらもプレイしたが、夢中になりすぎて、自分の連載を落としそうになった苦い思い出もある。 |
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担当: |
先週の、けっこう評判いいみたいだよ。 |
う: |
あ、あの回はモーパッサンの短編を原案(注08)にしてるんですよ。 |
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担当: |
キミは、そういう元ネタがあるときのほうが、いいものを描けるみたいだね? |
う: |
………オリジナルはダメっすか? |
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担当: |
う〜ん、ダメってわけじゃないけど、キミは「演出する」ことのほうが上手いみたいだからね、
たぶん広告の仕事してたから、そういう感覚が伸びてるんだよ。
面白くネタを伝える感性はいいものがあるよ。 |
う: |
………… |
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担当: |
だから、その元ネタ次第ってトコだね…… |
う: |
………… |
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※注08: |
■モーパッサンの短編を原案に
モーパッサンは短編を多く書いているが、そこにはホラー的な要素を持ったモノが多い。ボクはホラーを題材にしたショートギャグ連作を描いていたため、モーパッサンなどの古典小説を現在を舞台にアレンジして、マンガ化するということを試みてみたわけだ。このときは途中で連載が終わってしまい描けななかったのだが、「手」などはコワくて、それでいて人間心理を巧みに表現できていて、いいよねぇ。 |
(つづく[→広告漫画家物語:第3話「転向編」へ])
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