●[広告漫画家のつぶやき]
18.広告漫画家物語(自分史コミック原案)第4話

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第4話:独立
デザインナイフで写植に切り込みを入れ……
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ピンセットで印画紙の表面だけをうすく剥して……
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カッティングシートの上で、糊を裏側に塗って……
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台紙にぴたっと貼る(貼り終えると継ぎ目がわからないレベル)
(ラバークリーナーというはみ出した糊を剥す道具もある)
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同僚: ほ〜、うまくなったもんだな!
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(自慢げなうるのだが・・・)
う: うっ、誤植?!(文字の間違いを見つけてがく然とする)
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う: くそぉっ!写植屋いってきまぁ〜っす!!
(慌てて自転車で飛び出していく)
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NA: 当時勤務していた代理店では、新聞、雑誌などの記事下広告を大量に扱っており、毎日入稿用の版下を数十本も手掛けていた。
パソコンのなかった当時は、たった1文字の誤りでも写真植字を頼まなければならず、貼り合せる技術も含めて労力・コスト・スピードのすべてに大きな手間がかかっていた……。


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自転車で走りながら、何気なく看板に目を留める。
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「バンフー」という会社。
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マッキントッシュ(注15)、DTP、印画紙出力などと書いてある。
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う: ……マッキントッシュ?……DTP?
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※注15: ■マッキントッシュ(Mac)
WENDOWSも存在しなかった当時、デジタル制作ができる唯一のパソコンだった。紆余曲折しながらも、現在に至るまで、ずっとマッキントッシュを使い続けている。
ちなみにOSは未だに「9.02」(2008年現在)。OS-Xって、それまでのMACのよさだった「手の延長的な操作感」「現実の机上っぽさ」を失っちゃっていて、使いづらいんだもん。


社長相手に猛烈に提案する、うるの。
う: パソコンで広告作れるみたいなんですよ!
DTPっていう!ウチでも導入できませんかっ?
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社長: …ほー、そーですか、へー、なるほど…
じゃ会議で話してみましょうねー。(ノンキな社長)
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会議室のドアが閉まる。
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う: …………
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会議室のドアが開き、社長が顔を出す。
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社長: 何だかよくわからないから、ダメですって
(ちゅど〜んっと吹き飛ぶ、うるの)
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同僚A: 会社に任せとけばいいんだよ
(おい!)
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同僚B: 今のままでいいんじゃないの?
(そ〜じゃないって!)
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同僚C: どうせ写植と似たようなモンだろ?
(全然違うんだよぉおおお!!)
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う: 辞める!辞めてやる!Macを使える会社に行くぞ!
絶対これからDTPの時代になる!
それに漫画やイラストだって、パソコンで描くようになるに違いない!
時代に取り残されるのはイヤだ!
(部下も一緒にうなずいている)
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ちらっっと横を見る、うるの。部下、うなずいている。
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う: …お前らも…?
部下たち: 僕らだって取り残されるの、イヤですよぉ!
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(泣きついている部下たちの顔、困っている、うるの)
NA: このころ、先のプランナーは転職しており、主任として数名の部下を預かっていた。
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う: う〜ん、と言っても、みんなが辞めてしまっては、お世話になった会社に迷惑をかけてしまう……。
仕方ない、順番に辞めていくか…。
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NA: ……こうして、当時の制作仲間全員がやめることになる。
女の子たちから優先して転職先を探させ、抜けた人員の補充、指導、引き継ぎを済ませ、最後に辞めた。
決意してから、約1年後のことだった……。
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自宅の隅っこ。
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ジャジャーン!
新品のマッキントッシュ、スキャナ、プリンタ。
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う: メモリは4メガ(注16)!ハードディスクは40メガ!13インチ以下のモニタ!
A4モノクロのプリンタ!解像度100dpiのスキャナ!
全部で120万円!おサイフはスッカラカン!
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う: …………(泣いている)
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カミサン: 結局、独立することにしたのね?おカネもないのに……。
う: うっ、でも、結局どこも肌に合わなくってさぁ……。
もともと漫画家はフリーなんだし、なんとかなるっ!
カミサン: 相変わらず、根拠のない自信だよな…。
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NA: こうしてフリー活動がはじまる。
独立以前のコネクションを頼りつつ、チラシやポスターなどのデザイン、DTP、イラスト制作などが中心。
漫画の広告物制作も少しづつスタートし、漫画という特殊技能は、ここでも大きく役立った。
だが、まだ、順風満帆にはほど遠い……。


※注16: ■メモリは4メガ
これでも当時は大容量だった。
MOディスクが発売されるのはこの2年後、ウインドウズ95は4年後である。



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ある広告代理店
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う: え?(青い顔)
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某社長: ………だからさ、ちょこっと請求額、減らしてくんないかな?
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う: だ、だって、その額面じゃ、元の半分じゃないですか?
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某社長: これからもウチの仕事したいんでしょ?
考えてくれるなら今後も回すからさ………(ニヤリ)
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う: ……う……(うなだれる)


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喫茶店。
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プランナー: ……それでオレちゃったのか?
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う: ……だって、仕事続けなきゃならないし……
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プランナー: バカ、それじゃ、むしろ仕事こなくなるぞ?
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う: えっ?
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プランナー: そんな無茶な値引きさせたんだ、気まずく感じてトーゼンだろ?もう依頼してこね〜よ、その社長……
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う: …………(あぜんとしている)
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間。
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う: ……オレ、フリーでやってけるのかなぁ?
漫画家なんだかデザイナーなんだか、中途半端な感じだし……
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プランナー: 会社員が向かないってのだけは確かだろうな。
だってお前、漫画家としてもやっていきたいんだろ?
誰かの下でやるタイプじゃね〜よ
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う: ……そうかも、だけど……
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プランナー: それに前にも言ったけど、マンガが描けるデザイナーとか、広告が分かる漫画家とか、そんなヤツどこにもいね〜んだぞ?
お前だけの「力」なんだから、むしろ伸ばしたほうがいいんだよ。
絶対有利なんだから。
(ズゾゾ〜っとジュースを飲み干す)
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う: ……真剣にアドバイスしてくれてるよ〜に見えないぞ……
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プランナー: ど〜せ他人のコトだもん。
それにオマエ、ピンチっていう割には、いっつも何とかなってるじゃん?
運が良いのか能力があるのかは、全然分かんないけどさ。
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う: ホメるなら本気でホメてよっ!
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プランナー: ……ところでホームページって作れる?
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う: え?ホームページ?あのインターネットってヤツの?
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プランナー: うん、今、1つ話があるんだけど、やれる奴がいないんだよね。どお?
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う: ……と、と〜ぜんヤれるってば。
DTPやってんだから、今どき、インターネットくらい……(汗)
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プランナー: んじゃ、頼むよ!
とりあえず予算100くらいあるし、うまく行けば結構、仕事あると思うぜ?
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う: ひゃ、百万?
お、おおっ!任せとけ!(汗汗)
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NA: ……と、二つ返事で引き受けたが、実はインターネットなど見たこともなかった。
当たり前である。1995年当時は、まだまだホームページなどは普及していない。
大手企業だって、ホームページがなかった時代なのだ。
ブラウザ、HTML、何もかも、聞いたこともない。
慌てて初心者向けのホームページ参考書を買い、アサヒネットに契約し、ダイヤルアップ接続した。

おっかなびっくり、ホームページを作りはじめる、うるの。
隣には超初心者向けの参考書。
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う: ……ナニ?罫線は<BR>?
おおっ、ホントに線が表示されたっ!こりゃ面白い!
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NA: 勉強しながらの本番……。
……こうして、ホームページ作りを覚え始め、何とか期日までに、実際に使えるモノを作り上げた。
当時はホームページ制作会社など、まだ存在せず、作成ソフトもない時代だ。何もかもが試行錯誤だった。


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完成したホームページを納品する。
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プランナー: おおっ、ホントにやれたんだ!
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う: だからトーゼンでしょ!(ちょっと汗)
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NA: ……実は、この最初の仕事は資本金が数十億もある大手の仕事だった。そういう規模の会社が、これからホームページの整備に乗り出していく、そんな時代だったのだ。
先輩プランナーの会社が求人系に強い会社だったこともあり、その後、大手企業の新卒採用ホームページを多数手掛けることになる(日立、積水、セガ、バンダイ、NTT、キリン等)。
新たなスキルのおかげで、漫画広告などの他のスキルも売れ始め、少しづつ軌道に乗り始めていった……。



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