●[広告漫画家のつぶやき]
18.広告漫画家物語(自分史コミック原案)第5話

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第5話:帰郷〜連勝〜涙


帰郷



NA: ……子供が産まれたのを機に、故郷・茨城へ帰る決心をする。
都内のゴミゴミしたところではなく、もっと自然のあるところで子供を育てたいと思ったからだ。
ただ、それだけのことだったのだが、これが運命を大きく変える……。


(回想シーン)
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客A: えっ、茨城へ?…あ、そお……、へー……
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客B: 仕事あるときは呼ぶからねー!
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客C: ……茨城って東北じゃないのぉ?ま、これからも頼むよ
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(引っ越した自宅)
う: ……って言ってたのに……
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う: 仕事、全然こなくなっちゃった〜っ!
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カミサン: う〜ん、やっぱり遠いと疎遠になるんだねぇ…
う: 他人事みたいに言っとる場合かっ!
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カミサン: でも、なんとかするんでしょ?
う: する!根拠ないし、コネもないけど!


NA: 地元ではまったく無名だったため、デモンストレーションも兼ねて、筑波にパソコン喫茶兼デザイン工房を開業する。
別に喫茶店のオーナーになりたかったわけではない。
広告会社と関わり続けていて気になっていたのが「広告の世界は一般には分かりにくい」ということだった。
住宅のリフォームなども専門分野だが、気軽に立ち寄って専門家に相談できるショップがたくさんある。広告だって、そうであるべきだと思ったのだ。まして地方では、印刷費はともかく、デザインや企画への投資意識が低い。そこで、デザインや広告について語り合えるサロンのような工房を立ち上げてみようと思ったのだった。

人生の大勝負、投資額は約1000万円。全財産である。
珍しいと、数々の雑誌にも取り上げられた。

それが……


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大失敗!(ちゅどーんと吹き飛ぶ)
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NA: わずか半年で破綻・閉店する……。
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う: 仕事もないまま、借金だけ増えちゃったよぉおお!!
カミサン: な、なんとかするんでしょ……?


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NA: だが、この失敗はまったくの無駄ではなかった。
当時の茨城には、まだ本格的なDTPオペレーターやホームページ制作会社は少なく、いくつかの印刷会社や広告会社の社員たちがお店に勉強しに来ていたのだ。
(指導する風景)
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NA: そうした中の1社がインターネットに強い興味を持っていた。
折しも、茨城県では「高度情報化推進協議会」が発足し、県が運営するプロバイダ「ネットいばらき」がスタート。
地方自治体のホームページ需要が急増しつつあった。
(当時のインターネット事情)


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社長: うるのさん、ホームページやれるの?
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う: ばっちり!ムービーやアニメ、ゲームも作れる!もちろん漫画も!(注17)
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(にやりと笑う二人)
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二人: おっしゃぁ!公共を狙ってネット事業に殴り込みじゃああ!


※注17: ■ムービーやアニメ、ゲームも作れる
あくまでも当時のレベルで、である。フラッシュではなくショックウェーブで、いくつかのゲームやインタラクティブツールなどを手掛けていたが、その後、ネットのアニメコンテンツはフラッシュ一辺倒になっていく。




連勝


NA: 先の社長と組んで、茨城県内初の外注制作になる公共自治体サイト「大子町」の企画プレゼンに勝利。これを契機に一気に県内自治体の多くを担当することになる。
その数、98年までに制作された自治体サイトの6割以上。同業者からも注目されるようになっていく。
また、漫画家の経歴を活かしたキャラクター展開で、ソニー主催のデジタルコンテンツ大賞特別賞を受賞するなど、完成度や企画内容でも高い評価を得ていた。

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会社の一室。深夜。
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一人残って、パソコンで作業中の、うるの。
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う: ……こんなに売れてんのに、スタッフ他にいないんだもんな〜。
(やつれた顔のうるの)
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う: 他社も、まさか一人で作ってるとは思ってね〜だろ〜な〜。
(ネット事業部っていっても一人だし、設備機材も自腹だし………)
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NA: 当時は契約社員扱いで、同社の部長になっていた。
フリーでも仕事は続けていたが、茨城県内のホームページの仕事が非常に多かったため、独自の営業はできず、一部の懇意なクライアントだけを引き受けていた。
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そこに酔っぱらって帰ってくる社長。
社長: お〜っ、御苦労さん!
まだまだ受注とれてるからね〜!頑張ってね〜!
(やたらとお気楽)
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う: ……あのさぁ、いつまで公共サイト続けるの?
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社長: え?だってこんなに売れてんだし、ずっとこのままでいいんじゃないの?
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う: ……だってさ、どれも市町村要覧のネット版程度のモンじゃん。
それにお役所の担当者たちってモチベーション低いし、せっかく作ってもむなしいんだよね……
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社長: 要覧でいいじゃん、売れてんだから。
1つ1つの企画に手間かけるの面倒だったら、前の企画書コピーしちゃえよ。
どうせ似たようなモンなんだからさ
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う: だから、そーゆーのがイヤなんだよ!




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(ポツンとひとり残ったデスクで)
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「このままでいいじゃん」「どうせ似たようなモンだよ」の声が以前の広告代理店時代とかぶる……。
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う: ……あのときに似てるな。どんなに調子よくても、自治体の数には限りがあるんだ。
ライバル業者も力をつけてきてるし、このまま続けても、いつか今のようにはいかなくなるはずだ。
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う: ……オレ、やっぱ民間やりたいな……。
それも中小企業をやってみたい。
ネットを使えば、中小でも大手と闘える可能性があるもの。
そうやって、お客と一緒になって闘って、事業を作り上げていきたい……
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NA: 当時、県内では中小企業のほとんどはホームページを作っていなかったが、公共の電子化が牽引役となり、徐々にネットへの関心が高まりつつあった。
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う: 切り替えるなら今なんだ!
公共で高い評価を受けているうちに、新しい市場を開拓していかないと、また「ドングリの背比べ」からやり直しになっちゃう……!

それに……
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壁にはってある娘の写真を見る。
そのまま、回想シーンへ・・・





NA: ……大子町で勝利した直後のこと。
まもなく2歳を迎える娘が原因不明の発作を起こしたのだ。
発作は短時間だが、繰り返し襲い、退院はおろか、治療法もわからないままになった……。

危篤状態のまま、放置され続けている娘……。
一瞬の気も許せない状態での看病が数カ月続き、自分も家族も、限界になりつつあった……。
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ぐったりして寝ている娘。
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耐えきれなくなり医者に食ってかかる、うるの。
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う: 先生!どうなってるんですかっ!
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医者: いや、ま、検査を続けて原因を探らないとだね……
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う: だって、呼吸がまともに出来ないんですよ?!
入院して半年近いし、本当に詳しく検査したんですかっ?!


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夜。仕事場。
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ネットを検索している。
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医療関係のサイト。
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う: ……原因不明なんて、そんなはずはない。
絶対、見落としがあるはずなんだ……
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メールを書く。
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う: ……助けて……助けてください……
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NA: 医療機関のサイトを探しては、メールを書いた。
開業医、大学病院、研究者、手当たり次第だった。
誰でもいい、どうか娘を助けて欲しい。
返事が期待できるわけではないが、ワラをも掴む気持ちである。
何もせずにはいられなかった。

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ピ。
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メールが届く。
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それも、何通も。
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「!」
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NA: 多くの励ましの便りが返ってきた。
その数は数百通にもなった。
専門医からは、適切な検査の仕方までが届いた。
その検査を、娘は受けていない。
病院側は、その検査が必要なことを知りつつも、設備がないために見送っていたのだった……。
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メールの束をつきつけ、医者に言い寄る、うるの。
医者は平謝り。
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大学病院へ転院する。
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回復していく娘。
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涙ぐむ、うるの。
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夜。
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泣きながらメールを書く。
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う: ありがとう、ありがとう、ありがとう……!
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(回想シーン終わり)

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う: ……あのとき、ネットがなければ、娘は助からなかったかもしれない……。
1円のお金にもならないのに、力を貸してくれた多くの人がネットにはいた……。
インターネットは命の恩人だ。
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う: みんなが本当に有益な情報を公開できれば、それだけ誰かが助かるんだ。
カネさえもらえれば、それでいいわけじゃない。
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う: いいホームページを作ること。
いいホームページであるよう、お客を支援すること。
それが、娘を救ってくれたネットへの恩返しなんだ……。
ダラダラとやってちゃ、ダメなんだ……!



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