●[広告漫画家のつぶやき]
18.広告漫画家物語(自分史コミック原案)第7話

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第7話:起業〜気づき


起業



カミサン: さすがに今回は落ち込んでるねぇ。
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う: ……収入のあてがないもんな……。
クビにされたおかげで、失業手当は早めに出るけど、その後のアテがまるでない……。
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カミサン: 当面はアタシがパートにでも出てなんとかするから、じっくり考えなさいよ
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う: ……そろそろ、自殺でも保険おりる頃だよねぇ?
いざとなったらオレが死ぬから、娘を頼むよ?
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カミサン: エンギでもないこと、言ってんじゃね〜よ!
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う: ………でも、そこまで考えないと………。
オレは自業自得でいいけど、娘は守らなきゃ………。
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カミサン: ………………


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電話が鳴る(ケータイ)
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お客: 今、営業の人から聞いたよ、
うるのサン、辞めたんだって?!
事情も聞いてる、でもウチの会社のホームページはアンタに任せたんだ。
これからもやってくれないか?
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う: ……でも……
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お客: そこでね、ちょうどウチの会社の離れが空いてるんだよ。
電気も電話もネット回線も全部ウチが用意するから、そこでやってみないか?
家賃もいらないし、ウチの社員になれってんでもない、
ただウチのホームページの面倒さえ見てくれれば、あとは好きにやっていいからさ。
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う: ………!………
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お客: ……どうだい?
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う: ……2〜3日考えさせてください。


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電話を切る。
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カミサン: いい話じゃない?
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う: ……でもな、今回は今までと違う。
あの会社を信じきって、自分の持っていた全ての取引先も差し出してしまっていたんだ。
今から再独立しても、お客がいなくちゃ……
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Tさん: 何言ってんのよ?
(突然、横から顔を出す)
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う: Tさん……?!なぜここに?
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カミサン: アンタが落ち込んでるって言ったら、来てくれたの
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(Tさんのアップ)
NA: Tさんは、自治体サイトを手掛けていた当時のパートナー。
フリーランスの女性プランナーとして地元では顔も広い。
離婚後、仕事を続けながらも子育てを一度も犠牲にせず、二人のお子さんを立派な社会人に育て上げた人だ。
フリーとしての大先輩でもあり、うるのはとても尊敬している。
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Tさん: あたしなんか、女手1つでやってきたのよ?
アンタのピンチなんかピンチの中に入らないわよ
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う: ……Tさんにそう言われちゃうと……
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Tさん: あたしゃ、広告のプロデューサーだからね、商品のいいところを見つけるのが仕事でしょ?
アンタ、自分の本当の価値を自分でわかってない。
もう一度やってごらん、今度こそ、自分の力で。
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う: ………!………

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また電話。
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サーバ会社社長: うるのサン、例の件で辞めさせられたんだって?
もう自分でやりなよ、サーバなら専用のを1つ、タダで貸すよ。
ドメインも実はもう取ってあるんだ。
ウチだって今後もうるのサンの手を借りたいし、自分でやりなよ!
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う: ………!………

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電話を切る。
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妻&T: ほらね?(にやっと笑っている)
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う: ………


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またまた電話がなる。
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う: ……大手代理店のAさん?……
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A氏: 前の会社辞めたそうですね?独立ですか?
実は今度大きなサイト制作があるんですよ、
いや、H社でもI社でもなく、私はあくまでもアナタに依頼していたんです、
これからも頼みますよ!
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う: ………!………


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NA: 何もない、と思っていたのは間違いだった。
技術、知識、経験。それらは機械のデータでは無い。
誰にも奪えない、自分だけのものだ。
人は作品や作業だけにお金を出すのではない。
その人自身への信頼や評価、それが取引の本質だったのだ。
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う: うぉおおおっ!やってやるぜ!
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妻&T: ……チョーシに乗るのも早いな




気づき


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NA: こうして個人事務所として再スタートを切ることになる。
手放した、と思っていた今までのお客の多くも、決して離れてはいなかった。
中小の多くは予算に乏しいため、1万円程度の小口ばかりだったが、無理してでも仕事を回してくれた。
1万円も100件集まれば100万である。中小にこだわってきたのは、間違いではなかった。
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メールを書くうるの。

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NA: 実は、今までうるのは本格的な「営業」をしたことがなかった。
独立を望みながらも、誰かの傘下にいたいという弱い気持ちがあった。
誰かの力を利用したいというズルイ思いがあった。
だが、それでは本当の独立ではない。
だからこそ、積み上げては失うことの繰り返しだったのだ。

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メールを書き続ける。

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NA: 今度こそ、自分の足で立つ。
自分の本当の力は、誰にも奪えない。
小さな仕事を続けながら、コツコツとメールを書き続けた。
自分の特長、できること、目指すこと。
様々な会社へ。たとえ反応がなくとも。
そして、徐々に新たなパートナーも生まれていく・・・。



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来客。
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菅谷: ……いやぁ、メールをもらったときは、本当にビックリしました。
自治体サイトでは、うるのさんに何度もやられましたからねぇ。
まさか、独立してウチに連絡くれるなんて……。(注25)
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う: こっちこそ。偶然メールした相手が、当時のライバルだったなんて。
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菅谷: お互い、今は独立してやっているわけだし、今後は力を合わせてやっていきましょうよ!
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う: うん、お互いに、いいライバルのままで、でもイイモノを作るためにタッグを組んでいこう!


※注25: ■菅谷氏
現(株)アームズ・エディション代表取締役社長。
当時は彼も独立した直後に近く、会社も法人ではなかった。
取引先を探すために、あちこちのWEBサイトを検討していた中で、彼のサイトが内容その他で共感できる部分が多かったため、連絡してみたのだが、相手が彼だと知っていたわけではない。会ってみたら、ボクが自治体サイトを中心に仕事していた当時に、ライバル社のプロデューサーだったことが分かったわけだ。
当時のボクは連勝状態だったが、彼の会社はいつも意識していた。連勝とはいえ、際どいところで企画勝ちという状態であって、油断すれば負ける、と感じていたからだ。コンペの競合リストに彼の会社があると燃えた。
それにしても、かつての強敵が味方になるというのは、本当に心強いもので、彼とは現在に至るまで、ずっと協力体制を続けている。
特にWEB関係の仕事は、彼が営業やマネジメントを担当し、ボクが制作といった役割分担で、プロダクションとして職人に徹したいボクとしては、本当に助かっている。
WEBの仕事はマンガに似ていて、ただ言われた通りに作ればいいというモノではない。従って、クライアントに逆提案できるだけの発想力、行動力、交渉力が必須になるのだ。
この能力を全て兼ね備えている人材は、滅多にいない。ボクが本当に安心して任せられると思ったのは、彼だけ。このときの出会いは、たまたまに過ぎなかったのだが、もしかしたら結婚以外で人生最大の出会いだったのかもしれない。


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NA: その後も、業務提携などの形で、他社と組んだりするのだが、決して媚びたり周囲を当てにしたりはせず、自分ができることだけを、コツコツと続けていくことにした。

自社のWEBサイトも「よく見せよう」ではなく、自分がどんな人間かを分かってもらえればそれでいい、という作りに変えていった。

すると、不思議なことに、ネットを通じたオーダーが舞い込むようになったのである。
かつて、先輩のコネや大手代理店経由で担当していたような有名企業のオーダーが定期的に入ってきた。また、派手ではないものの、中小企業向けのサービスも、自らがピンチに陥った経験を元に、中小企業の経営実態に即したモノに変えていったため、着実に顧客を増やしていた。

自分と妻の二人。あとはWEBサイトだけ。
にも関わらずオーダーは増えていった。
見てくれでも無い、企業規模でも無い、立地でも無い。
人は、その人の本当の姿をちゃんと見ている。
そんな当たり前のことが、本当に実感できた。

そして、やっと素直に、思い通りの気持ちで仕事を続けていけるようになっていくのだ・・・。




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