●[広告漫画家のつぶやき]
18.広告漫画家物語(自分史コミック原案)第8話

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第8話:マンガの復活

NA: どんなに開き直ろうと、素直に人生を見つめようが、思いだけで上手くいくほど、世間は甘くはない。
しょせんは個人業で、法人組織のような力はないわけで、そういうヤツが人情だけで仕事を続けられるものでもない。

なにか、キラーコンテンツがいるのだ。
世間に打って出るための武器が。
それがマンガだった。


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事務所内で商談中。
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う: 遠路はるばる、すいませんねぇ。
会社がこんな安アパートでびっくりしたでしょ?
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お客: いやぁ、気にしませんよ。
トキワ荘みたいだし、漫画家っぽくていいじゃないですか。
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う: ……そこまでボロじゃないです……
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お客: 実は我が社の調査部に、マンガを描いてくれるサービスを検索させたんですよ。
1000社ほど見つかったんですが、漫画家本人がちゃんと打ち合わせから参加して一緒にやれるのは、うるのサンのトコだけだったんです。
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う: へぇ〜!
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お客: 今までも、マンガを広告に使う事はあったんだけど、漫画家にこっちの考えがちゃんと伝わらないことが多くて、次にマンガを使う時は、漫画家とちゃんと話し合ってからにしたい、と思っていたんです。
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う: いや、まぁ、ウチはご覧の通りの個人業だし、自分でやらなきゃダレもやってくれないし、そんなのアタリマエだと思ってたんですけど……
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お客: ええ、そうでないと、お互いの気持ちが伝わりませんしね。
で、コレがマンガの内容なんですが……
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う: え、シナリオ決まってるんですか?
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お客: いや、今までの漫画家さんは、みんなシナリオ用意してくれって言われてたんですけど?
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う: ……とにかく拝見しますね?
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(シナリオを読む)
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う: あの……、このままマンガにしても全然面白くないんですけど?
オレが作り直しちゃってもいいですか?
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お客: え?


NA: マンガの広告は20代の頃から手掛けてはいたが、漫画家だからマンガが描ける、という程度の考え方で取り組んでいたものだ。
ただ、せっかくマンガを描くんだから、広告だろうが何だろうがウケたいという気持ちはあった。
それに雑誌社で連載等の仕事はしていないんだし、広告というステージが、ボクに残された最後の作品発表の場でもあるのだ。
どうせやるなら、面白いものを描きたい・・・。


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う: 広告として伝えたいポイントや割愛しちゃいけない部分は、ちゃんとアピールできるように構成しますから、アレンジさせてくれません?

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お客: …………
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う: せっかくの広告なのにマンガがつまらないと、効果が上がらないでしょ。
それじゃ何のためにマンガで広報するのか分からなくなっちゃう。
読者を楽しませてあげて、そのイマジネーションに広告情報を乗せるからこそ、マンガで広告する意味があるんです。
単なる商品説明じゃモッタイナイですよ。
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お客: …………(ポカンとしている)
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う: ……もしかして……寝てます?
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お客: あ、いやいや……。
でも、漫画家さんなのに、広告の勉強もされているんですねぇ!びっくりしました!
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う: だって、オレ、広告屋ですよ?
で、コレはマンガではあるけど、メインは広告でしょ。
マーケティングとかターゲッティングとか、ちゃんとしなきゃ広告じゃないでしょ。
WEBでも使うなら、画面上での見せ方も工夫されてなきゃいけないし……

……だからこそ、ウチに来たんじゃないんスか?
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お客: いや、つくばエクスプレスで割とラクにいけるし、それでいて終日出張できて仕事サボれるな〜とか……
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う: そういうノリかよ!
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お客: いや、会ってみてよかった!
広告としてのバランスまで考えて描けるっていうのは、本当に助かる!
ぜひ、やってみてください!
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う: (ニヤリ)


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NA: 漫画家を目指し、やがて広告会社に勤め、そこから独立し、WEBを手掛け、事業を立ち上げては挫折する繰り返しだったが、それは無駄ではなかったようだ。
漫画家は広告プランナーではない。
広告プランナーは漫画家ではない。
それぞれのプロを起用したとしても、互いの専門分野に関しては素人どうし。分かりあえる部分は素人の部分でしかない。それでは、広告マンガが面白くなることなど、あり得なかったのだ。

近年、一般的なマンガ連載でも、マンガプロデューサーが付くことが増えてきた。
それと同じように、いや、それ以上に、広告とマンガの橋渡しとなる「広告マンガプロデューサー」が必要だったのだ。

全くの偶然、流されるままの人生。
だが、流れている間に、全く異なる広告とマンガの通訳ができるようになっていた。
漫画家と「広告漫画家」は、別のスキルなのだ。
ボクは結果論ではあるが、それを手に入れることができたのだ。


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NA: その後、大手・中小を問わず、様々なマンガ広告の企画が持ち込まれるようになった。
一度も売り込みに行ったことはない。
ボクは著名な作家でもない。
でも、WEBサイトを見つけてくれて、オーダーが入る。

漫画家本人による直営だから割安、というのもあるだろう。
少なくとも、最初はソコからだと思う。
でも、仕事を進めていくと、クライアントの反応が変わっていく。
改稿されたシナリオで驚く。仕上がった作品が納品されて驚く。依頼通りに作るだけではなく、逆に提案を返し、ときには広告としての配布方法や営業トークまでアドバイスする。
感謝のメールをいただくことも多い。

他の広告屋とは異なる切り口を作りたくて再開したマンガの仕事。
だが、それは、それだけではないフィールドへと、広がっていくことになり、今では海外(韓国、ハワイ、欧州など)からも注文が入るようになった。



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