個人情報や固有名詞はできるだけ伏せていますが、やりとりしたメール文面などは原文のママです。


■激震 2008.10
ボクは、熱くなったマンガのシナリオ案をしばらく伏せて、少し冷静になる時間を持とうとしていた。もうすぐ、これは走り出す。そのためにも、今はクールにシナリオを見直す時だ。自分の一方的な思いだけでは、読者に気持ちは伝わらない。でも、絶対に走り出す。熱くなった気持ちを力づくで抑え付けながら、でもマグマは溜っていく。

福祉メーカーから電話があったのは、そんなときだった。
例の福祉イベントのポスターもチラシも、すでにできあがって、要所要所に掲出されはじめた。ポスターには、ゲスト出演のイバライガーが紹介されている。
何の問題もないはずだ。

衝撃的な内容だった。何が起こったのか、一瞬混乱した。

イバライガーの代表者であるBOSS氏が著作権法違反で逮捕されたという。
新聞には「堕ちたヒーロー」とか「ご当地ヒーロー逮捕」といった見出しが出ていると言う。

信じられない出来事だった。
イバライガー逮捕!?
ちょっと待てよ!全てが動きだしたところじゃないか!
なんで、そんなことになるんだ!?

福祉メーカーからの電話は、ポスターを回収すべきではないか、出演を取り消すべきではないかという相談だった。
ボクは「それどころじゃない!」と言いそうになるのを抑えて、できる限り冷静に話した。

今回のことは、確かに糾弾されてもやむを得ないことでしょう。でも、関係者の一人が逮捕されたとしても、その団体そのものが悪ということではないでしょう?彼等が今日まで、ボランティア活動してきたのは事実だし、それは糾弾されるようなことじゃない。逮捕された本人は、しばらく活動休止せざるを得ないだろうけれど、イバライガーそのものには罪はないはずです。
それに人間はミスを犯すものです。たった一度のミスで全てが失われてしまうようでは、誰も安心して生きることはできなくなります。彼等はきっと心を入れ替えて努力するでしょう。御社は福祉の会社なのですから、社会復帰のチャンスを残してあげてください。

とっさに出た言葉だったが、本音ではある。むろん、ここまで理路整然と喋れたわけでもない。オタオタしながら、でも必死に頼んだのを覚えている。社会の在り方まで言及しているが、正論に聞こえて、でも詭弁でもある。これはイバライガーをツブしたくないという思いが言わせた「営業トーク」だったと思う。

けれど、担当者は分かってくれた
ポスターもチラシも、そのまま掲出と決まった。
ボクは本当に感謝した。
かっこいいことを言ってしまったが、福祉メーカーにとってはイバライガーがいなくても、それほど困るわけではない。むしろ、こうして社会的に叩かれているときに、その関係者をあえて起用するリスクのほうが大きい。キレイゴトや情は忘れて、ビジネスとしての正解を考えれば、ここはイバライガーをキャンセルしたほうが無難なのは間違いない。
それでも受け入れてくれた。どこまで深い考えがあったのかは分からないけれど、ボクの意見を聞いてくれた。本当にありがたい。喋ったときは、ただひたすらイバライガーを見捨ててほしくないから必死でキレイゴトを言いまくったようなモンだったが、今のボクはキレイゴトだとは思っていない。キレイゴトがちゃんと通じた。ってコトは、それはもうキレイゴトなんかじゃなくて真実なんだもの。
誰もが分かってくれるわけじゃないけれど、分かってくれる人は必ずいる。


こうして年末のイベント出動は、予定通りに行われる事が決まった。
だが、ボクは彼等に連絡しなかった。
イバライガーのホームページからは今後の出動予定がすっかり消去されていた。キャンセルがあったのか辞退したのかは分からない。心配だ。せめて年末のイベントは大丈夫と言ってあげたいとも思った。でも連絡はしなかった。
マンガの企画も一時ストップせざるを得ないからだ。少なくとも、今後1年以上は、イバライガーで防犯を訴えるマンガを描くのは無理だろう。こうしたことが起こった以上、残念ながら説得力がない。
ボクは、それを今伝える気になれなかった。落ち込んでいる人間を、これ以上追い詰めたくない。

それに、ボクは諦めたわけではない。というよりも、当事者たちには申し訳ないが、密かにほくそ笑んでいた部分がある
ヒーローの逮捕なんて、とんでもないマイナス要因だ。これで、全ての希望が絶たれたと考えてもいいくらいだ。普通なら活動をやめてしまうだろう。
でも・・・。
もし、そこから立ち直れたら・・・。
本当に復活できたら?

ドラマには山と谷が必要だ。それも起伏が大きいほうが盛り上がる。逮捕、絶望という場所から立ち上がれたら、これは本当にアツい物語になる。そもそも彼等はヒーローなのだ。逆境から立ち上がってこそだし、自ら招いてしまった失敗だからこそ立ち直った時には説得力のあるヒーローになれる。かつて不良だった人物が、やがてアツイ先生になるようなモンだ。
むろん、彼等が苦しんでいるときに、こんなことを言うのは非常識だ。だけど、いつか、これは大事な体験に変わる。古来、貴種流離譚には、荒んだ時代がつきものでもある。
そうだ、こうした失敗があったほうがいい。致命的と思われるような失敗が。絶体絶命であればあるほど、そこから復活できたときの歓声は大きくなるもの。
ボクはそう思うことにしたんだ。
そして、そう思ったら広告屋の部分がムクムクと動き出して「ふふふ、企画のしがいがあるってモンだ」と、不謹慎にもワクワクしてしまったりもしたのだ。
関係者にしたら「冗談じゃね〜よ!」なんだろうけどさ。広告屋・・・マーケッターの性って、そういうモンなんだよ。正直、地方の中小企業の広告やWEBをプロデュースするのって逆境を利用するようなモンで、こういうときに落ち込んでいたら広告プロデューサーはやってられないんだよね。逆境をひっくり返す、逆境を武器にする、そういうシチュエーションに燃える。まさに島本和彦状態。
だってさ、どうせ勝てそうもないってことは「勝ち目があるときには絶対採用してもらえないようなアイデア」に挑戦するチャンスだからね。そういう機会が目の前にあったらプランナーなら燃えなきゃウソだよ。つくづくバチ当たりな性分だとは思うけど、パニくって役立たずになるよかマシでしょ。

でも、今はそっとしておくしかない。ボクにできることは、彼等が復活することを信じていることだけだ。あいつらはきっと立ち上がる。こんなことで挫けてしまうようでは、ヒーローじゃない。

その気持ちをすぐに、自分のホームページに書いた。

茨城各地で活躍しているご当地ヒーロー「イバライガー」は以前から気になっていたのだけど、最近とある縁で知り合うことになり、ボクのほうから「マンガ化させてほしい」と声をかけさせていただいた。シナリオ案を提出したところ快諾いただき、そのテストショットとして描いたのがコレ。その直後、イバライガー関係者の不祥事があって、企画は中ぶらりんになってしまっているのだが、何があろうと、ボランティアで地域のためにがんばっていた活動そのものは否定されるべきではないと思う。
シナリオを思い付いた時、自分で考えたくせにボクは目頭が熱くなった。あの物語は封印されたわけじゃない。ヒーローものに苦境はつきもの。それに耐えて不死鳥のように蘇る日がきっと来るとボクは信じている。
(うるのクリエイティブ事務所ホームページ記事より抜粋)

彼等がこれを見るかどうかは分からない。というよりも、そんなモンを見る余裕なんかないだろうことは、分かっている。でも書いた。ボク自身の所信表明として。オレたちは終わらない。オマエらとの付き合いも、こんなコトで終わりにはさせない。その気持ちをネットで公開する。取引先にも伝える。
ボクは絶対あきらめないぞ。


念のために言っておこう。ボクはこの件から2年以上が過ぎた今(2010年12月現在)でも、この不祥事に関して彼等を弁護しない。今後も、だ。
現在のボクは、代表者が逮捕された事情や背景について、かなり詳しく知っている。それについてここで語りはしないが、自分が同じ立場だったら、やはり同様に逮捕されてしまったかもしれないような事情が「報道されなかった背景」にあることを知っている。
だが、それでも「真相」を明かそうとは思っていない。軽卒であったことは間違いない事で、不祥事は不祥事だ。批判は受け止めるべきで、どんな事情があろうが、身びいきで評価をひっくり返そうとも思わない。また何年経っても、ボクらは決して忘れちゃいけないことでもある。全部受け止めていくしかないんだと思う。正義のヒーローだからこそ、どんな事情があろうが、それを美化したり弁解したりはしないほうがいいように思う。
ただ、反省して出直そうとしているのなら、ボクはそれを信じたいと思うのだ。カッコつけてるわけじゃなく、ボクが同じような間違いを犯した時に許されたいからだ。誰でも間違いは犯す。自分だけはそんなことは起こさない、などとは言えない。事の大小はあるかもしれないけれど、ボクの人生だって間違いだらけだ。知らず知らずに間違った行動をしているかもしれない。間違えながら、誰かに許されながら、一歩一歩進むしかないのが人間だろうと思う。
今、彼等は過去を反省し、一所懸命活動し続けている。つい調子に乗り過ぎちゃうところは変わってないけれど、二度とあんなことはしないだろうし、させやしない。もし、どこかの芸能人みたいに、また同じような真似をしたりしたら、そのときこそボクが息の根を止めてやる。ボクはそのつもりでイバライガーのそばにいる。



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