個人情報や固有名詞はできるだけ伏せていますが、やりとりしたメール文面などは原文のママです。


■イバライガーは「正義の成功者」であってほしい 2010.12
2010年11月。全然実感のないまま今年もあとわずかとなり、一昨年、イバライガー復活の舞台となった福祉イベントが開催されることになった。ボクは7月頃から、このイベントの企画に関わっていて、イベント企画とともに、広告、ポスター、WEBなどの整備を続けてきた。
当然ながら、今回もゲストにイバライガーを招く予定だ。ボクからもBOSS氏には打診したんだけど、こういうことは主催者から正式にオファーしてもらうべき。ボクがやっちゃうと馴れ合いになりかねないからね。そういうわけで主催者に「依頼してくださいね」と頼んでおき、ボクはイベントの準備に打ち込んでいた。

イベント当日、何かのノベルティを配布しようと考えた主催者は、せっかくだからイバライガーのグッズにしたいと考えていた。ボクも賛成した。イバグッズができるからというよりも、そのほうが企業名の入ったボールペンなんかよりは、ずっとマシなグッズだからだ。もらった人に喜んでもらえないと、せっかくノベルティを配っても企業イメージアップにつながらず、単なる自己満足で終わってしまう。イベント企画者として、それは見すごせない。限られた予算で、できる限りの好感を与えたいわけで、そこでイバライガーにお出まし願おうと思ったわけだ。
イバライガーにとっても関連グッズが出回るのは悪くないことのはずで、この話はすんなりまとまると思っていた。実際BOSS氏は、以前、他社のイベントでイバライガーグッズが作られたときに使った画像を提供してくれると言ってくれていて、それをボクが預かってトレースし直すという段取りにもなっていたのだ。

が、11月に入って、主催者から落ち込んだ電話が。グッズを作るのであれば、キャラクター使用料がかかると言われたというのである。また、出動のギャラも、年末の繁忙期だからというので、もっと増やせないかと言われたらしい。

・・・・・・・・・・・・。
なるほど、それは筋だ。イバライガーは決して裕福ではないし、ふっかけているわけでもないだろう。繁忙期に高くなるのも仕方ないことだし、間違ってるとは言えない。

だけどね。

このときは、別にイバライガーグッズで儲けようと思ってたわけじゃないんだよね。それどころか、イベントで無償配布するけれど、余った分はイバライガーに提供してあげて、販売したりファンサービスでプレゼントしたりしてもらえばいいと思っていたんだ。つまりイベントのついでにイバライガーを支援してやろうと主催者は思っていたわけで、儲けのことなんか全く考えていない。ていうか、そこまでイバライガーは期待されていない。自社マークのグッズよりはマシだろうというだけ。
さらに出動自体も、決してイバライガーがいなければイベントが成立しないということではない。あくまでも福祉機器の展示会なんだから。イバライガーは、このイベントに必須の条件じゃない。彼等を呼べれば、より充実したイベントになるとは思うけれど、予算で折り合えないなら無理してまで呼ぶ必要はないんだ。
仮に主催者が十分な予算を用意しようとしたとしても、ボクは簡単にOKは出せなかっただろう。その企業の利益になるよう、最適な予算の使い道を考えるのが企画者だ。公私混同して企業に負担をかけるような真似はできない。いなかったらいなかったで問題なくやれるんだから、呼びたいというだけで企画提案することはできない。

それに、思い出してほしい。かつて不祥事で誰からもソッポを向かれた時、それでもショーに招いてくれたのは、この福祉メーカーなのだ。経済的な支援じゃなかったとは思うけど、それよりずっと重たい支援をしてくれたと思う。
恩義があるだろ?ボクは、例えノーギャラでも、他のショーがあったとしても、ここは出動して恩返しすべきであって、無償のグッズを作るくらいは認めて当然だと思った。
それに、こういう地元企業に喜んで協力してこそ「イバ」ライガーだろ?
少しでも予算が欲しいのは痛いほど分かるけど、この相手には言っちゃいかんのだ。

だからボクは主催者に言った。

「今年ちょっと売れたからって何様だと思ってるんでしょうね?そういうことなら断っていいです。イバライガーに頼って企画しているわけじゃないんだから、もう当てにしないでノベルティは他のモノにしましょう。
ボクからも後日、彼等に話しますが、それで理解が得られないようならボクもイバライガーとの関係を考え直します」


一字一句このままではない(ボク、親しいお客とはタメ口に近いんだよね。でも敬意は払ってるので、文章では敬語口調にしてるんです)けど、本当にこういうことを言った。だって、このときは本当に「この恩知らず!」って頭に来ちゃったんだもん。

ボクはイバライガーが好きだ。彼等が経済的に苦労していることも、よ〜〜〜〜く知ってる。
でも、ここはカッコつけるべきところだ。ツッパるべきところでツッパれないのは男じゃない。男らしくないヒーローは応援できない。ぶっちゃけ、ここでイバライガーの肩を持ったら「お前もそういうヤツなのか」ってことになっちゃうからね。オレ、金が欲しい時でも、必死にツッパって付き合ってきたんだから。ここでキレイゴトを貫けないんじゃ、これまでの辛抱もパァだもん。

2年前のイベントで、この主催者がイバライガーを呼ぶ決断をしたのは、もちろん単なる善意じゃないはずだ。彼等なりの計算もあったはずで、客観的には借りだとは言えない。だけど、思惑がどうであれ、ああいう時期にショーをさせてくれたのは事実で、イバライガーはそれを恩義と感じなきゃいけない。どこかで誰かがペロリと舌を出したとしても、そんなこと知った事じゃない。偽善だったとしても純粋に感謝していなければならない。ちょっと前に「一杯のかけそば」が流行ったでしょ。苦しい時の一杯のかけそばは、裕福なときの満漢全席に勝るんだ。
キレイゴトを愚直に貫いてこそヒーローだとボクは思ってる。
だから今後、イバライガーに関れなくなるとしても、ここでは擁護できなかった。キレイゴトってね、一番強力な処世術なんだよ。痛い目に何度も合ったからこそ、ボクはそう思っている。

それに、イバライガーを呼ぶ企画が出た時に、ギャラがいくらかかるだろうかと主催者から相談を受けたときに、ボクは

「2年前は本当にありがとうございます。あのときの事を考えたら、無償で協力しても当然かもしれませんが、彼等も苦しい中で頑張っているんです。まして年末となれば、彼等は稼ぎ時とも言えます。そういう時期に招くわけですから、なんとか多少でもいいですからギャラをご用意ください。
ギャラが少ないなら、無理させないでやっていただけませんか?ショーをやるには何人ものスタッフが必要で、それには人件費もかかります。だからギャラを抑えたいのなら、ショーではなくて握手会や撮影会など、少数でやれる形式で勘弁してほしいんです。それなら何とかなるはずです」

と答えた。
ボクはヒーローショーの相場なんかしらない。でも、ショーでの出動にどれくらいの人員がいて、どんな機材が必要で、どの程度の時間を費やすのかは知ってる。だから、そこから逆算して「これくらいは必要のはずだ」という数字は見える。しかも頼めば、彼等は予算がいくらだろうが出動して、いつも通りにやっちゃうだろうことも。
だから、無理をさせない出動を考えてもらうように頼んでおいたのだ。

ボクだってショーをやってほしいけど、彼等がこれからも活動していくには資金は必要で「いくらであってもやるのがアタリマエ」ではマズイのだ。本人たちはその覚悟でいいけど、周囲にそれで当然だと思われてしまうのはマズイ。
信頼関係は、どちらかがどちらかに甘えていては成り立たないのだ。

主催者は納得し、そういう前提でオファーしてみると言ってくれた。BOSS氏にも事情は話して、無理はするなと言ってあった。だから、12月26日のイベントでは握手会だけのはずだったのだ。
それは同イベントのポスターにも反映されている。ボクは「イバライガーRも来る!」とは記載したけど、どこにもイバライガーショーとは書いていない。ショーをやるほど予算は出ないことを知っていたし、それなのに無理してショーをやらせて、イバライガーに負担をかけたくはなかったから、ショーはないものとしてポスターにしたの。

それなのに、ギャラがもっと欲しいとか、キャラクター使用料とか言い出したってのか?
あいつら、そういうヤツラだったってのか?

もちろんイバライガースタッフがショーをやりたがる気持ちは分かる。
せっかく出動するのならショーを見せたいのは当然だろう。ボクは分かっていながら、あえてショーをやらない前提の企画をしたとも言える。

でも、その思いをスポンサーに強いるのは間違いなんだ。スポンサーの思惑を超えてやるってことは彼等自身の決断であって、スポンサーは関係ない。もちろん、スポンサーがその意気に感じて予算を上乗せしてくれるっていうなら、それに越したことはないから、ちょっと打診してみようか、というくらいはいいんだけど、要求してしまうのは筋違いだ。
相手が予算に準じた出演内容で納得してるのに、それを上回る内容と予算を求めては押し売りになっちゃうもん。

BOSS氏は、本当にそんな我が儘を言っているのか?
ボクは心配になって、様子を探りにいった。主催者とイバライガーに挟まれた立場のボクには、両方の言っていることが食い違って見えた。誰かが悪いんじゃなくて、たぶんお互いの認識がズレているだけだと思ったのだ。どちらも、話せば分かる人たちだ。
ただ、問いつめたりするのは逆効果だと思ったので、説教したり感情をぶつけたりはしないで、決定事項だけを言った。
イバグッズは取り止めにしたから、と。
主催者は今以上の予算は出さないだろうから、ショーはやらなくてもいいんだから、とも伝えた。
(出す力はあると思うんだけど、だからって出してくれるってモンじゃない)

その数日後、また主催者から電話が。
BOSS氏が理解を示してくれたのだそうだ。グッズのことも了承してくれるとのこと。
やっぱりそうか。お互いに立場の違いがあって、言い分がズレていただけだ。BOSS氏は我が儘を言っていたわけじゃなかったみたいだ。やっぱ、こういうモメゴトは両方の言い分をきちんと聞かなきゃダメなんだよな。ボクは本当にほっとした。
イバライガーはやっぱりヒーローだったんだな。


けど、元々予定していたグッズ(エコバッグ)は、もう製造が間に合わない。
そこで缶バッジを作ることにした。
そのことをBOSS氏に伝え、了承してもらった。

出動のギャラがどうなったかは、ボクには分からない。立ち入った事まで聞こうとは思っていないから、主催者にもBOSS氏にも聞いていない。ギャラが多かったはずはないんだよね。それが無理なことはよく分かっていたもの。ただ、どっちも我が儘は言ってないようだ。お互いに譲り合って、歩み寄って決まったこと。

でも、当日はショーが行われた。新キャラクターも登場して、とてもよくできたショーだった。

会場の外の喫煙ブースで一服していると、隣にいた人が、ボクが着ているイバライガー・スタッフパーカーをチラチラ見てる。ショーも是非見てください、と声をかけたら、たった今、一回目のショーを見たところだという。
このお父さんは、障害のある幼いお子さんと一緒に見たのだそうだ。お子さんはイバライガーが好きらしく、以前にもショッピングセンターのショーに行ったのだけど、そのときはジャーク怪人が怖くて、途中で帰ってしまったのだと言う。
でも、今日のショーは、子供も大喜びだったという。敵であるジャーク戦闘員のために、おばあちゃんの思い出のお守りを取りかえそうとする物語は、とても優しいストーリーで、子供たちも、自分も感動した、と。障害があるからショーに行きにくいんだけど、それでもイバライガーだけは、これからもずっと見たい、と言ってくれた。

ボクは嬉しくて、ちょっとジーンと来てしまった。タバコを吸ってるから煙が目にしみただけかもしれないけど。会場に戻って、クロちゃんにそのことを話したら、やっぱりちょっとウルウルしてた。

主催者も、とても喜んでいた。色々あったけれど、最後には大団円を迎えられた。ああ、よかった。やっぱりヒーローはそうでなくっちゃ!

ショーがちゃんとできて、よかった。予算が苦しくても、まったく手を抜かないで、素晴らしいシナリオを書いてくれたしょ〜ちゃんにも、結局、ヒーロー本来の姿を忘れず、新キャラまで投入して本気で活躍してくれたBOSS氏にも、その他、全てのスタッフにも感謝している。


・・・・でも、いつまでも手放しで喜んではいられない。
ボクが懸念していた問題の根本のところは、全く解決されていないからだ。

2010年は、今まで以上にイバライガーが活躍した年ではあった。あちこちのショーで大勢に支持されるようになったし、ファンの熱い声援もある。大手のスポンサーもいくつか付くようになってきて、様々な可能性が見え始めたとも言える。

でも結局今回も、予算度外視の出動をさせてしまった。
ボクは無理をさせないように色々工夫してきたつもりだったけれど、結果的には無理をさせてしまった。彼等が自分たちで決めたことだけど、このままでいいとは思えない。

イバライガーを求める声は大きくなってきている。だが、何人ものスタッフを必要とするヒーローショーには、それなりの予算が必要だ。そして、この不景気の世の中で、ほとんどの中小企業には、イバファミリーが総出動しても問題ないだけのギャラを払える力はない。払いたくても払えっこない。
だから、わずかなギャラでもイバライガーは駆け付ける。

だが、だからといってイバライガーチームが頑張り続ければいいってモノじゃないと思う。
採算が合わなくても出るべき時は出る。それは好ましい姿だし、ヒーローらしいとは思う。でも、現実としては資金力を得る事も大事なんだ。
とはいえ、お金にならない出動は控えろとも言えない。彼等はヒーローなんだ。小さな声に応えてこそ、ヒーローというものだ。これからも、できる限りの要望に応じていかなきゃならない。


ボクは、茨城のヒーローを守るのは、茨城の人々だと思っている。イバライガーが茨城を守るなら、そのイバライガーを守るのが茨城だ、と。
彼等を食わせるためにお金を集めるんじゃない。彼等のためじゃなく、茨城のためにイバライガーを支えればいいんだ。彼等が茨城のために頑張ってくれるというなら、ボクら県民は、それを支えていけないだろうか。一人ひとりはホンのちょっとでいい。みんなで力をあわせれば、いつでもヒーローが駆け付けてくれる素晴らしい地域を創れるんじゃないだろうか。

それに、ボクは、彼等の苦しみを前提としてヒーローで楽しませてもらうなんてのは嫌だ。ボクらが楽しみ、元気づけられる分だけ、彼等にも幸せになってほしいんだ。だって、彼等は仲間だもん。仲間の幸せって気持ちいいだろ?

イバライガーは、茨城のヒーローであり、活動母体も「茨城元気計画」を名乗っている。すなわち、茨城に貢献していくことを宿命づけられたヒーローだ。その活動は地域の人々に支えられていくしかない。
だが、茨城の経済は疲弊している。ボクは本業でそのことを思い知っている。都合良く予算なんか出てこない。それでも「イバ」ライガーである以上、そういう人々と支えあっていくしかない。
だからこそボクは、これからも適正な出動規模と、それに対する理解を求めていこうと思っている。イバライガーは、いつでも期待に応えてしまう。ならば周囲のボクらが気をつけてあげなきゃ、ボクらはいつかイバライガーを失ってしまうのではないのか。

ボランティア的な善意の多くは、自己犠牲に支えられていることが多い。中には儲けている人もいるけれど、大抵はボランティアワーカーが、お金や時間や労力といった代償を支払っている。世の中、正義を行う者が富む、ということにはなっていない。むしろ、その逆が目立つ。
ボクはそれじゃダメだと思う。キレイゴトかもしれないけれどいいことをすればするほど豊かになれる社会であってほしい。純粋な善意じゃなくても打算でもいい。とにかく、いいことをすれば豊かになれる社会であってほしい。

そういうことを実現するのは簡単じゃないだろうけど、それでもそれを目指すべきだと思う。そしてイバライガーには、その体現者になってもらいたいと思っている。善意の行動は、こんな成果を得られるんだぞと、人々に知らしめてほしいんだ。

だからボクはイバライガーに豊かになってもらいたい。
イバライガーを通じて「正義」というビジネスモデルを見つけたい。
彼等のためにも、茨城のためにも、ボク自身のためにも。



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